もっぱら、君ばかり。（ar×in） (ページ10)

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夢の狭間で捕まえてページ10

「…大ちゃん、起きて？」

まだ薄暗い時間、隣で眠ってるはずのいのちゃんが小さく俺を揺すりながら言った。

「ん…？まだ、朝じゃないでしょ……」

寝ぼけ眼を必死で擦りながら様子を伺うと、いのちゃんは俺が起きたことに安堵したみたいだった。

「…どした？怖い夢でもみたの？」

「うん…」

いのちゃんは俺と二人だとわがままスイッチが入るけど、案外こういうときには遠慮するタイプ。

なのに起こされたということは、きっともう眠りの世界へ戻れないほど嫌な夢だったのだろう。

この季節は特に引っ付いて眠る俺たちだけれど、さらに俺からぐっと距離を詰める。

怖がりなお姫様は甘えるように俺の胸にぎゅうと、身を寄せた。

大丈夫だよという意味を込めて背中を擦りながら抱きしめる。

「俺でも居なくなった？」

暗がりで表情は読めないけど、いのちゃんは一瞬驚いて、頭をグリグリと押し付けてきた。

おぉ、これは図星かな。

「も、なんでそういうこと言うの…大ちゃんってほんとデリカシーない」

「はは、当たった？ごめんって、ほらここにいるから」

ね？って、両手で柔らかい頬に触れる。
いのちゃんは相変わらずそんな俺の指に頬ずりをした。

撫でると猫みたいな反応をするのが、好き。
俺の体温ごと愛してくれるのが伝わって、余計に触れたくなる。

「電気付ける？」

「いい…顔見られたく、ないし」

「泣いてんの？」

「う、違うもん…」

あまりいじめると、寝返りを打とうとするから慌てて抱き寄せた。

足も絡みつけて捕まえて。
いのちゃんはそんな俺に少し笑った。

「ふ、羽交い締めかよ」

「違うよ、羽交い締めはもっとこう…」

「うわっやんなくていいわ、バカ！」

良かった、少しは気分もマシになったかな？

いつも笑顔にさせたいけど、一方的な関係は好きじゃないとも思う。

いのちゃんとは家族みたいに、隣にいるだけで笑い合える関係がいい。

「寝れそ？」

「…なんか目、冴えちゃった。もう少しだけくっつかせて？」

「ん、いいよ」

おいで、ってもう一度腕を広げると、いのちゃんは少しだけ申し訳無さそうに…でもするりと入り込んでくれた。

「どこにも行かない？」

「当たり前」

こうやってすぐ不安になるとこも、そんな弱さを見せるのが恥ずかしいと思ってるとこも、

ぜんぶぜんぶ、守りたくなる大切な人。

「ねぇいのちゃん。俺たちの昔話、しよっか。」