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彼から生い立ちを聞いたのは、彼が家に来てから何度目かの夜のことだった。
小さな頃は、どんな子どもだったのか、という質問をするのに私は蛮勇を奮った。
これ以上彼に立ち入りたくないと思う反面、彼のことを知りたくてたまらなかった。
「元々、名古屋で生きてて」
「大阪やなかったんや。」
「うん。けど、仕事で、本格的に踊るようになってから、東京と行ったり来たりしてた」
「東京でも舞台してたん?」
「いや、東京は踊るんやなくて、芝居で」
「芝居?平野さん、役者なん」
「役者…とはまた違うかなぁ、演技の仕事はするけど、それだけやないし」
「どっちが好き?踊るのと、演じるの」
「好き?難しいな、どっちも、好きとか嫌いとか、そういうの超えてる」
「超えてる」
「けど、楽しいよ、やってて。」
ベッドの上で、「平野紫耀」はしきりに自分の唇を噛んでいた。
感触を確かめ、時には苛めるように。
その度に見え隠れする小さな前歯を、私は自分の肌を貫いた刃のように、じっとりと見つめた。
「っていうか、質問とズレてるな、俺。どんなこどもやったか、やんな」
「うん」
「とにかく、やんちゃしてた。毎日血だらけで。」
「血だらけ?」
「そう、階段から飛び降りてみたり、いろいろ無茶なことして。」
「すごいな、活発や」
「うん。やし、母親にいっつも怒られてたな」
「厳しい人?」
「まあ、やんちゃなんはたぶん母親ゆずりのんやけどね。“まま”って呼ばれたがって、呼ばなしこたま殴られたな。」
「うそ。怖いな」
「うん、めっちゃ。けど、甘やかしてくれるときは、ほんまに甘くって。俺のこと、“しょーちゃん”って呼んだりして。それが、嬉しかった。」
「嬉しかったんや、」
「うん、」
「“しょーちゃん”」
「似合わん?」
「ううん。そんなことない。」
「…ありがとう。」
「平野紫耀」は恥ずかしそうに少し笑った。
彼の幼い頃を見た気がした。
「演技とか、ダンスはいつからやってたん」
「ダンスは、小学生のとき。演技は…高校生の頃かな、けど、本格的にちゃんとしたいって思ったんは、3年前の、夏から」
「3年前の、夏」
その言葉を発する、彼の顔を見た時、頭の中でけたたましくサイレンが鳴り始めた。
これ以上踏み込んではいけない。
脳のどこかで、誰かがそう言った。
しかしその声を聴きながら、なにも止められないことも、分かっていた。
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ふてぃか(プロフ) - 忙しいと思いますが更新待ってます ! (2019年8月16日 17時) (レス) id: 6381a07ad2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:琉叶 | 作成日時:2019年3月24日 1時