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彼が家に来てから、私は文字通り彼にどっぷりと浸かった。
同じものを食べて、同じベッドで眠る日々に私はどこかで夢を見ているような心地だった。
夢の中で、何度も何度も、醒めてくれるなと願った。
「Aさん、絵書いてるとこ見せて?」
「…いやや」
「なんでよ、俺描いてもええよ?」
「かかへん、いや」
ただし、1つだけ
彼が家に来てから決定的に変わったことは、絵を描かなくなったことだった。
「平野紫耀」は何度も、私に絵を書いてほしいとせがんだが、私はその度に拒絶した。
「見られながらやと書けへん」とか「恥ずかしい」とか。
それも嘘ではなかった。
が、もっと根本的に、私は絵を描かなくなったのではなく、描けなくなっていたのだ。
「平野紫耀」と繋がったあの日から。
かつては溢れるほど湧いて出てきたイメージも、デザインも、テーマも。
何一つとして出てこなくなった。
無理矢理筆を持つと、途端に指が震えた。
小刻みに揺れる手を抑えると、今度は呼吸が苦しくなり、最後にはキャンバスを倒してしまった。
それでも、「平野紫耀」と過ごす全ての時間は、幸福という言葉では言い表せないほど、甘く満ち足りていた。
たとえ、その代償として、私の全てといえるものを喪ったとしても。
彼と過ごすことに比べれば、取るに足らないものだと、思えた。
少なくとも、そのときまでは。
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ふてぃか(プロフ) - 忙しいと思いますが更新待ってます ! (2019年8月16日 17時) (レス) id: 6381a07ad2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:琉叶 | 作成日時:2019年3月24日 1時