EPISODE3-34 蛸壺メランコリック！ ページ5
目を開ける。広がっているのは灰色の空間。
海藻が揺れて、ヒトデが床に落ちていて、机も椅子も石で出来た海の世界の学校。
――僕の居場所は、いつもタコ壺の中だけだった。
黒板代わりの石に書かれた文字を消しているふくよかなタコの少年人魚に、幼い少年人魚2人が上から見下ろしている。
『やーい、アズールズルズル、墨吐き坊主！』
『さっさと拭けよ。足ならたくさんついてるだろ？』
『や、やめてよぉ……な、何でそんなこと言うの……』
泣きそうになっているタコの少年人魚を見て、私は目を見開いた。
「こ、これがアーシェングロット先輩……？」
私の知っているアーシェングロット先輩は、すらりとした体躯と端正な顔つきをした少年。
なのに、目の前で泣きそうになっている彼は、今と体型がほど遠いと思うほどふくよかだ。
『逃げろ！墨つけられるぜ〜〜〜』
『きゃははは！俺らに追いつけっこないけどね』
『うっ、うっ……』
アーシェングロット先輩を馬鹿にして、逃げるように遠くへ泳いでいく少年人魚たち。
確かに、タコの人魚である彼はあの2人のように泳ぐことはできない。
「海の世界でもいじめだなんて……低俗なことする連中は陸でも変わらないのね」
元の世界で通っていた学校でも、スクールカーストはあったし、地位が低い子をいじめていたところを目撃している。
……まぁ、見ていて不愉快だから、色々と手を使ってしないように脅したけどね。
――ほかの人魚と違って、吸盤が沢山ついた足。
――引っ込み思案でハッキリものも言えない。
――勉強も運動もてんでダメ。
――僕は、いつも1人ぼっち。
――グズでノロマな、タコ野郎。
「なるほど……これが彼のコンプレックスなのね」
リドル先輩は毒親、レオナ先輩は王家の風習のせいで苦しめられていた。
アーシェングロット先輩は、この過去のいじめのせいで長年苦しめられたのだとわかった。
『アイツがいると水が濁る。だって泣くと墨吐くんだもん』
『鬼ごっこしても、すぐ捕まえられるから一緒に遊んでもつまんない』
「なら関わらなきゃいいだけじゃない。バカなの？」
いじめっ子というのは、自分より下の人間がいるといじめたくて仕方がない性分をしている。
相手のことをわかっているくせに、いじめるなどバカがすることだ。
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作者名：ブロッサム | 作成日時：2020年12月22日 15時
