�� ページ12
白いタキシード。白いシルクハット。白いマント。片目につけられたモノクルと、その手にはめられた白の手袋。友人によく抜けている、と言われた私でも、それが何者なのかすぐ分かる。
世紀の大怪盗、怪盗キッド。初めて見た印象は、(意外と小柄なんだな)だった。未知なる存在は私の中では物理的に大きな存在になりがちで、だから目の前に現れた彼にそんな印象を持った。
ここには私と彼と、タイラーしかいない。ともすれば、彼は私に用があってここに降り立ったのだ。疑問は尽きない。だって、私は金目のものなんて何も持っていない…何より、彼が盗むのはビッグジュエルだけなわけだし。
彼が吐き出した息が白く色付く。それを見て改めて、ああ、彼も人間なんだな、なんて当たり前なことを実感した。私の中でマジシャンというものは、魔法使いなのだ。
つかつかとした足取りで歩み寄ってきた彼が口を開いた、ところで、ふと彼の動きが一度止まる。ざっと1メートル30センチ。近すぎず、遠すぎない距離。
キッドの視線を追うと、彼はタイラーに目を向けていた。タイラーは例によって聴導犬、と書かれた胴着を身につけて私の膝の上に顎を乗せて寛いでいる。
タイラーを見つめて考える仕草をしたキッドは、少し待ってくれ、と私にジェスチャーをしてからタキシードの内ポケットからスマホを取り出した。へー、キッドもスマホなんだ。あの機種見たことある気がする。
待つも何もどこかに行く予定もない私は、スマホで何かをするキッドを眺めながらココアをちびちび口にする。少し待つと、彼は不意に近付いてきて私にスマホの画面を見せてきた。
“何をしていらっしゃるんですか？”
おお、キッドが私に関心を示している…と変な感動を覚えていると、反応を返さない私に彼は不思議そうに小首を傾げる。初代怪盗キッドがそのまま活動していたとすれば50歳を超えているそうだから、彼はその二代目かはたまた全くの別人か。
少なくとも目の前にいる彼はその仕草も然(さ)ることながら、見目も随分と若そうに見える。私よりも年下か、はたまた同い年か。そんなことを考えつつ、私は彼にココアの缶を掲げて見せながらもう片方の手を伸ばしてキッドの背後の満月を指差した。彼はそれに応じて、背後の満月を振り向き見る。ああ、白に白の重なりって、近くで見ると幻想的だ。
向き直りざまの斜めの角度から見るキッドの笑みは、まるでモデルみたいに綺麗だった。ファンがいるのも納得だ。
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ぺんぎん。 - すきです。こうゆう小説すごく和みます (2022年2月27日 8時) (
レス) @page15 id: d21f01a898 (このIDを非表示/違反報告)
ケイ・ニコラス(プロフ) - とても好きです！続きが気になります！ (2021年7月4日 21時) (レス) id: c3f15b312b (このIDを非表示/違反報告)
杏 - なんだかすごく優しい小説でした。こうゆう小説がもっとあればいいのに。すごく好きです。 (2018年4月1日 22時) (レス) id: 636a061378 (このIDを非表示/違反報告)
きなこ餅(プロフ) - 明日も頑張ろう、と元気や癒しを頂きました。ありがとうございます。すごくすごく好きです。 (2018年3月5日 20時) (レス) id: c5e0d1202b (このIDを非表示/違反報告)
ゆめさみ - とっても癒されます＾＾ (2018年2月19日 0時) (レス) id: ec209772b6 (このIDを非表示/違反報告)
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