始まり、始まり。 ページ1
「………どこ、ここ。」
居た覚えのない場所に、わたしは居た。夜で、車の中で、後部座席で、わたしは横になっていた。体には毛布が掛けられていて、その毛布からはほんの少しの香水の匂いがした。女の人が付けるものじゃない。男の人が付けるものだ。
……どこかで嗅いだことのある匂い。どこだっけ、これ。誰のものだとかって記憶がないから、多分ほんの一瞬だったか、わたしが寝てたかのどっちかだ。……なんかよくわかんないけど落ち着く匂いだなあ。
もぞりと毛布にくるまって丸くなる。どうしてわたしがここにいるのか分からないけど、危険はなさそうで少し遊ぶ。うにうにむにむに。目が覚めたばっかりだけどまた眠くなってきた。
「…猫みたいだな」
「にゃっ。うえ、誰?」
「ふ……赤井秀一、という」
もぞりと体を起こして運転席にいるその人を視界に収める。赤井秀一。わたしはその名前を知っていた。そして、その人は確かに、わたしの知るその人だった。どうしてここに、なんて疑問はあまりにも愚問だ。あれは紙面上の架空のもの。
なら、ここは紙面上から生み出された世界なんだ。わたしはいつの間にか世界を飛んでしまっていたらしい。記憶がないから本当にいつの間にか、だけれど。
「………俺の顔に何かついているか?」
「…んーん。おにーさんかっこいいですねえ」
「……そうか?君はなかなか面白いことを言う」
「きひ。言われたことないです?」
「少なくとも面と向かって言われたことはないな。しかも君のような女性に」
「女性?あはは、よく言う!」
どう見ても子供でしょ、と笑えば、彼も口許を緩めてうっすらと笑う。ああ、やっぱりかっこいいなあ、この人。わたしはこの人と、安室さんが好きだった。コナンくんと哀ちゃんも、キュラソーもジンも、この世界にはわたしの好きな人が多い。
(ああ、知られたくないなあ)
わたしが普通のただの子供で、ただこうして笑っていられたら、わたしはそれで良かったのに。
「君の名前は何という?」
「A。一二三A」
「A。」
「ね、わたしはどうしてお兄さんと一緒に?」
「俺が君を拾ったんだ。」
「ひろう?」
「森で倒れていた君を見つけた。流石に放っておく訳にもいかないからな」
「ふへ、おにーさんやさしー。」
いっそ放っておいてくれたなら、なんて、あんまりか。状況が状況でない限り、いくら赤井秀一でもそんなことしないのは分かってるし。
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