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涼太君の目は、日本の四季よりもころころ変わる。
わかりにくいという人もいるが、彼とそこそこの付き合いがある人はすぐに見ればわかるはずだと私はいつも思っていた。
だっていつもの彼はとろけるような瞳のはずなのに、今では鋭く冷えたナイフのようなのだから。
涼太君は目で語る人だ。作り笑顔も上手だけれど、絶対に目は嘘をついていない。先輩が「俳優にはなれない」と言っていたけれど本当にそうだと思う。
彼はラブシーンなんかではきっと嫌いな女の子を目の前にして笑えるけど、瞳は全然笑っていないだろうから。
ちなみに今は表情すら笑っていなかった。私に隠す必要性もないと思っているのか、彼は私に対してはほんのちょっと機嫌が悪いときにも顔に現れる。それが今だ。
怒りを含んだ彼の瞳に少しひるみながらも、私は彼からの視線をそらした。
「やることっていうのは……その、レポート、とか」
「レポートついこの間終わったって言ってたじゃん」
「……え、えーっと、その。それじゃないレポートがあったり……」
かなりたどたどしい口調になってしまっている自覚はあった。
最初にシナリオを考えておけはよかったものの、今さっき、むしろ頭では考えず口でぽっと言っている程度のものだから、信ぴょう性がない。なさすぎる。
どこか空虚をみながらも「ええと」と繰り返す。そこに答えがあるわけでもないことは知っていたが、どうにか逃げようと思ったのだ。
私が「ぶ、文化の授業で……」とか「あっ、やっぱり基礎技法だったかなぁ」なんて頭パニックの状態で、額やら頬やらに冷や汗を伝わせながらなんとか声をだしていく。
その間、無言だった涼太君は、私の焦りきった言葉のあとに「へぇ」と小さくつぶやいた。
感情の抜け落ちたような、冷たく凍りきった声で。
「……Aっち、忙しいんスね」
「う、うん」
あれ、バレてない?
顔は完全にそらしているので、彼の瞳の色も表情もわからない。
だが、先ほどの「へぇ」という声よりは少しだけ明るいトーン。ふっと笑っている彼の顔すら想像できてしまうほどだ。本当はどうかわからないけど。
わかった、というようにゆるむ涼太君の腕。意外と聞き分けがいい。いつもこうしてればよかった。私はほっとして食器洗いを再開し始めた。
が、此処で気づくべきだったのだ。彼が「忙しいんスね」なんて言うとき、普通はしょぼんとした犬のような声を出すはずだということを。
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鎖月零(プロフ) - Flower*さん» flower!ありがとうございます!!短編の夢主は同じ夢主で書くのが普通だということを今の今まで知らなくて……全員バラバラにしてしまいました(笑)私も短編の方が書きやすくて軽くかけるので楽しかったです!続編頑張ります! (2018年2月26日 18時) (レス) id: e5c976073b (このIDを非表示/違反報告)
Flower*(プロフ) - 1完結(?)おめでとうございます!甘々で読んでてドキドキしてしまいました(*ノωノ) それぞれのお話の夢主ちゃんたちも個性豊かで面白し、何より短編なので読みやすいです。やっぱり零すごい……。続編の方も首を長くして待ってます! (2018年2月24日 0時) (レス) id: 4d95f4e8a2 (このIDを非表示/違反報告)
黛パフェ(プロフ) - 鎖月零さん» めっちゃ楽しみにしてます!!! (2018年2月18日 18時) (レス) id: d3f83fb575 (このIDを非表示/違反報告)
鎖月零(プロフ) - 黛パフェさん» うそぉ……本当に恥ずかしいです(笑)規制かかる系の甘々はあまり得意分野ではないのですが、楽しんでいただけると幸いです……!甘くなるように頑張ります (2018年2月18日 18時) (レス) id: a33d034fdf (このIDを非表示/違反報告)
黛パフェ(プロフ) - 鎖月零さん» 今でもたまに見たりしますよ!黄瀬くんの好きですー!規制とかあまり気にしないタイプなので別のアカウントで見に行きますねー! (2018年2月18日 1時) (レス) id: d3f83fb575 (このIDを非表示/違反報告)
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