序3 ページ7
二人は気がつくと逃げ出したはずの倉庫に戻っていた。目の前にはにこにこと笑う男が立っていた。顔は、笑みを作っているが目が全く笑っておらず、その目からは怒りすら感じ取れた。
「Aちゃん」
「大丈夫、大丈夫だよ、焦凍くん」
「う、うん！」
Aは焦凍の前にでて、ふわふわと、尾を揺らした。それを見た焦凍は、ふっと、笑って両の手の平を男に向け睨んだ。Aは、風を纏うようにして周囲に張り巡らせて走り出した。
「ははは、可愛いね。子どもでさ」
「どいて！」
Aは助走をつけて男に蹴りをいれた。焦凍は、男の視線がAに向いた時、すぐに足元を凍らせた。子どもの力なんて弱いのはわかっていたが、目線を少しでも逸らせられればよかった。いざとなれば、狐火で助けが来るまで自分と焦凍を守れば良い。
「俺が１人なんて一言も言ってないんだよなー」
「うぐっ」
「焦凍くん！」
焦凍は、知らぬ間にいた女に蹴り飛ばされて壁際で倒れていた。
思わず振り返ったAは首筋を捕まれ、身体を浮かせてられていた。Aは、 にやにやと品のない笑いと、床に倒れ咳き込む焦凍と目があった気がした。男の手を、腕をぽたぽたと赤い血が伝っていた。
「ひぅ…」
「ほらほらぁ頑張らないと。ね、A」
「殺してはダメですよ」
Aはにやにや笑う男のそれを怖いと目をぎゅうっと閉じた。
こっちに来て優しい両親に囲まれて過ごし…そう、Aは今、個性を持って初めて怖いと思ってしまった。
男達がふと視線をAから外すとぽんぽんといたるところで青白い焔が上がっていた。消えることのない青白い焔が…
Aは男から解放され急に沢山入ってきた酸素に噎せながら目を薄く開くと自分と焦凍を守るように赤い火が広がり、一つずつ青白い焔が現れては消えていくのを見て意識を手放した。
続→
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作者名：唯星 | 作成日時：2017年12月20日 21時
