序4 ページ8
ゆらゆらとゆらめく意識をなんとか持ち上げたAは女の人がひどく優しそうで壊れそうに微笑んだような気がした。瞬きを何度もするとそこは病院だった。
「A！！あぁ、よかった。身体はなんともないかい？」
「おとう、さん？」
「そうだよ、お父さんだ。」
目が覚めると病院で少しやつれたAの父、護が笑った。護はAを目一杯抱き締めナースコールを押したのが見えた。そこからは、医者に身体を見てもらったり質問に答えたりして一日が過ぎていった。
「焦凍くんは？」
「彼は元気だよ。Aちゃん、ありがとうって言ってたよ」
「よか、ったぁ…」
３ヶ月もの間入院生活が続いた中で一度だけ焦凍がスーツに身を包んだ男の人とAのお見舞いに来ていた。少しだけ気まずそうな照れ臭いような顔をしていた焦凍はいろんなことをAと話した。久しぶりの家族以外の人に楽しく会話をしていたが、焦凍が今回の事件でできてしまったAの首もとにある傷を見つけると撫でるようにその傷痕に指を添えた。
「…僕、責任とるよ。大きくなったら迎えに来るから」
「え？」
「それって、どういう…？」
だから待ってて。と意を決して焦凍が放った言葉は狐葉家を混乱に陥れた。近くで聞いていた護が１番混乱していたのかもしれない。とりあえずは混乱している狐葉家の病室に焦凍の家の人が入ってきて、軽く挨拶を済ませると焦凍は名残惜しそうに手をひらひらと振って帰ってしまった。変わりに入るように母、風架が花瓶に花を生けて病室に入ってきた。
「お、お父さん。どういうこと？」
「ぼ、ぼくもわからない」
「Aちゃんは、モテモテなのね、婚約者だわ」
「A、モテモテなんだ」
序・はじまりの約束
(あの目に少しときめいた、なんて…)
(お前がくるまで、Aはどうするんだよ)
(…拒架？)
(なんでもないよ、A)
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作者名：唯星 | 作成日時：2017年12月20日 21時
