12.信じるものはバカを見る ページ13
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翔「お待ちしてました、鳴海様」
「…………」
翔「こちらへどうぞ」
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やっぱりあの時見たあの人は、私の幻だったのではなかろうか。
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そう思ってしまうほど、目の前にいるスーツで身を包み込んでいる人は私に対して恭しく振る舞い
私を電話で呼び出した張本人が待っている、最上階へと連れて行く。
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“今から会えませんか”ーーー…と言われたのはついさっき。電話の主は松本さんだった。
断る理由も無かったので二つ返事ではいと答えた。
…多分、それだけじゃない。理由は。
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翔「それじゃあここからは私がご案内しますので」
＊「分かりました、よろしくお願いします」
翔「では鳴海様、エレベーターに」
「失礼します…」
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きっと、今ここにいる人が本当に実在するのか確かめたかったのもあるんだと思う。
エレベーターに乗り込んだ私と櫻井さん。
静かに目の前の扉が閉まり、完全に密室になった瞬間。
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私は口を開いた。
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「随分澄ましてるんですね」
翔「……」
「まるでこの前とは別人です。」
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私の前に立っている櫻井さんは何も言わずに、ただ真っ直ぐ。扉を見据えるだけ。
私は構わず言葉を繋げる。
静かに、でも着実に上に進んでいるエレベーターはもうすぐで最上階へと到着する。
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「なんでそんな周りの人を騙すような…、欺くようなことするんですか？」
翔「…」
「私は櫻井さんのものにもなりませんし、松本さんとのお見合いもお断りします」
翔「…」
「あの」
翔「こちらが」
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ピンポン、とエレベーターが最上階に到着したという合図が鳴る。
彼は振り向かない。
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翔「こちらが最上階です。奥の社長室で松本がお待ちです」
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何も答えてくれない。やっぱりプライベートじゃないとあの顔は出さないのだろうか。
なんだか後味が悪くなって、すいませんって頭を下げて彼の横を通り過ぎようとした時。
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翔「お前はもっと人を疑った方がいい」
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低い、地を這ったような声が私の心臓に響き渡る。
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「え？」
翔「…社長室はこちらです、鳴海様」
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風が吹く。
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