139. 初恋 ページ19
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「…どうして?」
間抜けにこぼれた私の言葉に
また困ったように笑う孝にぃちゃん。
「Aちゃんのことを櫻井くんに紹介したら
彼にとられるって思ったんだ…」
「…………」
頭の中で一生懸命にいろいろ整理するけど
わけが分からなくて何も言えなくなった。
「自分が黙ってたらAちゃんと櫻井くんは
もう一生会うことなんかないって思ってた。
だけど、会っちゃったみたいだね」
「だけど、社長は私のことなんか忘れてるよ」
「そうなのかなぁ…
忘れてるのかなぁ…
もし、忘れてるなら、それはそれで
オレとしては、嬉しいけどね」
そう言って
孝にぃちゃんは深いため息を吐いて
ぽつりと言った。
「オレ、Aちゃんのことが好きだった。
だから、Aちゃんと一緒に仕事してる
櫻井くんに、ちょっとやきもち妬いてる…」
その言葉に、私はびっくりしながら
孝にぃちゃんを見つめた。
ただ、ホンの少しだけ
はっきり見えたことがあった。
社長とは、そんなふうに
偶然会ってたのかもしれないけど
私のことなんか忘れちゃってるんだ。
だって、私のこと覚えていたら
あんなふうに孝にいちゃんの前で
恋人同士みたいな態度はとらなかっただろうし
その前に私に何か言ったはず…。
私は…
社長の記憶の片隅にも存在してなかったんだ。
「この際だから言わせてもらうけど…
俺は今でもAちゃんが好きだよ」
「えっ…」
「昨夜のカンパリオレンジの意味
調べてみた?」
「……」
「あのカクテルの酒言葉は
初恋って意味なんだよ」
孝にぃちゃんが優しい顔をして微笑んだ。
「オレは、櫻井くんに恋してるAちゃんも好き。だけど……」
そう言って
今度は、深く息を吸い込むと
「ゆっくりでいいから
オレを見てくれるようにならないかな…
オレは絶対にAちゃんを悲しませたりはしないよ」
「………」
「ホンのちょっとだけでいいから
今回、オレが言ったことを
頭の隅に置いといて」
私に答えさせないように
孝にぃちゃんにそう先手を打たれて
「オレ、車の運転は短気だけど
他のことに対しては気は長いから
だから、お願いね…
ゆっくり、考えて…」
そう言って、いつもと変わらない様子で
帽子ごしに私の頭を優しく撫でた。
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作者名:ミイ | 作成日時:2016年3月13日 0時