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その日を最後に、Aもその父親も教団に現れることはなくなり、俺は何か物足りないような、おもちゃを取り上げられた子供のような、不思議な心地を感じていた。
「私は病気で妻を亡くし…」
ああ、そんなこと興味ないよ。
Aと話がしたいのに。
「教祖様、どうか私を極楽へと…」
その言葉に応えるように感情の伴わない穏やかな笑みを向ければ、涙を流して有り難がる信者。
それを見てもやっぱり何も感じられない自分に、これがAだったらどんな心地だろう、と考えたあと、何故ここでAが出てくるのだろうと自分で自分に疑問を感じる。
「それでは失礼致します」
ああ、とにかくAに会いたい。
ひたすら上の空のそんな俺の願いに応えるように、突然開いた扉から入ってきたのは、涙を瞳いっぱいに溜めたA。
「A!…ちょうど、会いたいと思ってたんだ」
俺の言葉を無視して突進するように抱きついてきたAは、そのまま苦しそうに嘔吐いたかと思うと、俺の腹に吐き戻してしまう。
「っ、ご、ごめん…!」
「いいよ。…体調が悪いの?」
笑顔でそう問いかけた俺を切なそうに見つめたAは、「それより着替えを…」と俺の服に手をかける。
「ああ、そっか」
上着を脱いでみせれば俺の上着を受け取ったAは、「洗ってくるよ」と立ち上がろうとするので、咄嗟にその腕を掴んで引き止める。
「…どうして、しばらく来なかったの」
「…。体調が、悪くて」
「お父さんまで一緒に?」
「…うん」
ねぇ、その笑顔はどういう意味?
そう言葉にしようとした俺の手をやんわりと腕から離して、Aは教団から出て行ってしまう。
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チーズ(プロフ) - ななさん» コメントありがとうございます!嬉しいお言葉、そして最後までお読みいただきありがとうございました! (2019年12月18日 9時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
チーズ(プロフ) - レインさん» ありがとうございます(^^) (2019年12月18日 9時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
なな - すっごく面白かったです。長すぎず短すぎず読みやすいし…この作品作ってくださりありがとうございました (2019年12月18日 7時) (レス) id: 1bb73627c8 (このIDを非表示/違反報告)
レイン - チーズさん» え、うちの方が大好きです! (2019年12月17日 22時) (レス) id: 05e6c43b69 (このIDを非表示/違反報告)
チーズ(プロフ) - レインさん» レインさん!コメントありがとうございます!こちらの童磨も、なかなか切ない結末ですもんね、、私はむしろ、一つ一つ丁寧に感想をくださるレインさんが大好きです! (2019年12月17日 20時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:チーズ | 作成日時:2019年12月14日 17時