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次の日、きっとAが上着を返しに来てくれるだろうと思っていた俺の期待は、あっけなく裏切られることになる。
「…え？」
「…Aさんが…、お昼頃、息を引き取られたそうです」
意味のわからない報告に、俺はいつもかかさず浮かべている笑みが、思わず保てなくなるのを感じる。
「え、…どうして？」
「朝方…堕胎をしたらしいのですが、その時内臓を傷付けてしまって、出血が止まらなくなってしまったとか…」
「堕胎？」
一体誰の子供だって言うんだ。
「きょ、教祖様！」
突然立ち上がった俺を慌てて引き止めるその声を無視してAの家に向かうと、Aの亡骸に縋り付きながら涙を流す父親の姿。
…本当に死んじゃったのか。
残念だなぁ。Aが居なくなってしまっても、俺は何も感じないのか。
そんなことを考えながら、ただぼーっとAの青白い顔を見つめていると、「ああ、教祖様…娘のために、涙を流してくださるのですね」と手を合わせられる。
涙？と不思議に思いながら頬に手をやれば、そこは確かに涙で冷たく濡れていて。
この涙はなんだろう。
どういう意味だろう？
色んなことを考えながらふとAの手首にある鬱血痕が目に入って、そういえば、と以前、お父さんという言葉に異常に怯えていたAの姿を思い出す。
「そういえば、お父さん。Aに随分乱暴をなさっていたようですね」
「…な、なにを…」
「Aが以前、教えてくれたんです。実はお父さんに…って」
有りもしないことを並べ立てて涙の溢れる目を細めて笑顔を作れば、「違う、私は…！Aが俺を！」と父親は突然取り乱し始める。
「はは。…そうだ、一番大事なことを聞き忘れていましたね」
子供の父親は…誰ですか？
そんな俺の質問に答えたのは、血だらけになった父親のうめき声。
「…ああ、汚れちゃったなぁ」
血で汚れた手を父親の服で拭ってAに近付くと、俺の瞳から溢れた涙がAの頬へとこぼれ落ちてゆっくりとその頬を伝っていく。
「まるでAが泣いてるみたいだね。…ねぇ、A。俺はどうして泣いてるのかな」
その問いにAはもちろん答えるはずもなく、溢れて止まない涙の意味も分からずただひたすらに目を閉じて動かないAを見つめ続ける。
「…A。君を…助けてあげたかったよ」
そうだ。
俺は結局、一番助けてあげたくて、幸せにしてあげたかったAを、Aだけを、助けてあげることができなかったんだ。
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チーズ(プロフ) - ななさん» コメントありがとうございます！嬉しいお言葉、そして最後までお読みいただきありがとうございました！ (2019年12月18日 9時) (
レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
チーズ(プロフ) - レインさん» ありがとうございます(^^) (2019年12月18日 9時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
なな - すっごく面白かったです。長すぎず短すぎず読みやすいし…この作品作ってくださりありがとうございました (2019年12月18日 7時) (レス) id: 1bb73627c8 (このIDを非表示/違反報告)
レイン - チーズさん» え、うちの方が大好きです！ (2019年12月17日 22時) (レス) id: 05e6c43b69 (このIDを非表示/違反報告)
チーズ(プロフ) - レインさん» レインさん！コメントありがとうございます！こちらの童磨も、なかなか切ない結末ですもんね、、私はむしろ、一つ一つ丁寧に感想をくださるレインさんが大好きです！ (2019年12月17日 20時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：チーズ
| 作成日時：2019年12月14日 17時
