美少年 【嘴平伊之助】

29 ページ29

・



「！する！するぞ結婚！…そしたら、ずっと一緒ってことだろ？」
「と、友達のままだって、ずっと一緒に居られるよっ！」
「…ならAは、俺以外の雄を番に持つのか？」
「！」


伊之助の言葉に、伊之助が本気で言葉の意味を分かった上で喋っていることを理解して、Aは嬉しさなのか何なのか、胸の奥がぎゅっと苦しくなるのを感じる。


「俺は、Aがいい…」


苦しいほどに抱きしめられながら紡がれる言葉があまりに切実で、Aは頭ではまだその言葉の意味を理解できずにいるのに、熱いものが瞳から溢れてゆっくりと頬をすべり落ちていく。


「…嫌だから、これが出るのか？」


どこか悲しそうな表情で横からAの顔をのぞき込んだ伊之助は、そう言ってAの透明な涙の痕を指先でなぞる。


「違うよ、」


伊之助の言葉に慌てて首を横に振ったAに、「本当のことを言え」と眉を寄せた伊之助がAの正面に回って、Aの表情を窺うようにAをじっと見つめる。


「…伊之助に、やっぱり他の人が良いって、言われるのが…怖いの」
「言わねぇよ、そんなこと」
「本当に？伊之助はすごく素敵だから…きっとこれから、沢山の人に好きだって言われるよ」


Aの言葉の真意が分からないのか、Aを見つめたまま瞬きを繰り返した伊之助は、「別に誰に好きと言われようが、俺が好きなのはAなんだから、関係ねぇだろ？」と首をかしげる。


「私より、魅力的な人は他にも沢山いるってことだよ」
「俺が魅力的だと思うのは、Aだけだぞ」
「そんなの分からないじゃん」


Aの言葉に困ったように眉を下げた伊之助は、「なら俺は、どうしたらAとずっと一緒に居られるんだ？」とそっとAの手を握りこむ。

30→←28

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す