美少年 【嘴平伊之助】

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「…伊之助、」


Aと伊之助は共にAの家へと向かい、二人で夕食の準備を始めたのだが、先ほどのやり取りがよほど応えたのか、伊之助はAの背中に引っ付いて離れようとしなかった。


「…これじゃ、何もできないよ…」
「…、邪魔はしてないぞ」


より一層強く抱きついて離す気はないらしい伊之助に、Aは「お兄様が来たら離してね」と念押しして夕食の準備を続ける。


「…ホワホワな匂いがする」
「ふふ、それっていい匂いなの？」
「ずっと嗅いでいたくなるってことは、つまりいい匂いだ！」


伊之助の物言いに可笑しそうに笑ったAは、「私も、伊之助の匂いはホワホワってするよ」と言葉を返す。


「！本当か！」


ふふ、とAの耳元で嬉しそうな笑い声をもらす伊之助に、Aはなんだかくすぐったい様な心地になって、同じく笑い声をもらす。


「…何をしているんだい？」


突然、本当に突然、音もなく現れたAの兄は、あからさまに貼り付けたような笑みを浮かべて、たおやかな動作で首をかしげる。


「お、お兄様…！」


慌てて伊之助を引き剥がそうとするAと、どういうつもりか抵抗する伊之助を見比べた兄は、「二人はついに、恋仲にでもなったのかな」と口元に手を当てる。


「い、伊之助…！」


この状況で否定しても怪しいだけだとAは頑張って伊之助に離れてもらおうとするものの、片時も離れないつもりなのか、伊之助は思いきりAを抱きしめる。


「く、苦しい…！」
「…恋仲、になったら、Aはずっと俺と一緒にいてくれるのか？」
「へ、」
「…最後まで責任を取る気がないなら、兄としては許可できないなぁ」
「…責任？」


伊之助の疑問に感情の読めない笑みを深めた兄は、「…結婚だよ、結婚」と目を細める。

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