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「…、」
結局走り去って帰ってくることはなかった伊之助に、Aは仕方なしに家へと戻って、次の日いつも通りに伊之助のもとを訪れると、伊之助はしきりに視線をさまよわせて何も言わずに顔を俯かせていた。
「…伊之助?」
「な、なんだ?」
「…大丈夫?どうしたの?」
自分も緊張しているのに、それ以上にガチガチな伊之助を前に自分の緊張よりも伊之助を心配な気持ちの方が勝って、Aは眉を下げて伊之助の顔をのぞき込む。
「…う、」
一瞬Aに目を向けて頬を赤くした伊之助は、「し、心臓がドクドクってやつだ…」と言って落ち着かなそうに身じろぎをする。
「ああ、昨日言ってたやつだね」
「…、昨日みたいに、ぎゅってしてもいいか」
「え、」
「そこら辺からAが変になって、そのせいで俺まで変になったんだ!」
自分なりに、おかしくなった理由はAだと結論付けたらしい伊之助は、強引な行動のわりには優しくAを抱き寄せて、ぎゅううっとAを力いっぱい抱きしめる。
「い、伊之助!」
「…んー、昨日とは何か違う…」
昨日は混乱しすぎて分からなかった、筋肉で引き締まった腕の感触や温かい伊之助の体温に、Aはドキドキと胸が高鳴るのを感じる。
「ああ、昨日はここを噛んだな」
そう言って昨日の行動を再現するようにAに噛み付いた伊之助は、強く噛みすぎたと思ったのか、最後にぺろりと舐めてから唇を離す。
「…っ、」
驚きすぎて固まるAをよそに、「んんー、これも違うのか」と呟く伊之助は、「昨日のは何だったんだ?」と放心しているAに目を向ける。
「…。相変わらず心臓はドクドクだが、こうしてるとホワホワするな!」
返事をしないAにそう言って、同意を求めるようにその顔をのぞき込んだ伊之助は、驚いたように目を見開く。
「その顔だ!」
「え、」
「その顔!…こう、ぐわーってなるんだよ!」
そんな事を言われても、今思っていることと言えばもしかして伊之助も自分を好きなのではないか、という何とも浅ましいもので、何も言葉を返せないAは、何とか赤い頬を誤魔化そうと両手で頬を包んで伊之助から視線を逸らした。
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チーズ(プロフ) - 唄子さん» コメントありがとうございます!そしてお返事遅くなり申し訳ありませんm(_ _)m嬉しいお言葉をありがとうございます!! (2023年4月10日 3時) (レス) id: 3890fde5bc (このIDを非表示/違反報告)
唄子 - 胸がキュンキュンです (2022年8月10日 21時) (レス) @page37 id: 585502c22b (このIDを非表示/違反報告)
チーズ(プロフ) - ナギサさん» コメントありがとうございます!伊之助の良さが表現できていたようで嬉しいです!ご期待に添えるように頑張りますので、よろしくお願いします(^^) (2020年12月9日 15時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
ナギサ(プロフ) - 伊之助のこの男らしさと可愛さが混ざった表現を…ごちそうさまです。続き楽しみに待ってます (2020年12月9日 6時) (レス) id: 4d18708d8c (このIDを非表示/違反報告)
チーズ(プロフ) - しがれっとさん» 嬉しすぎるお言葉ありがとうございます〜!!お兄様いいですよね!歳の離れた妹を溺愛しつつ、厳しいところは厳しい、しっかりしたお兄様でございます(^ω^) (2020年12月7日 18時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:チーズ | 作成日時:2020年11月24日 18時