検索窓
今日:25 hit、昨日:12 hit、合計:94,932 hit

3 ページ3





「伊之助!」


大きな声で名前を呼びながら伊之助に駆け寄るAの手にはどんぶりが握られていて、「なんだそれ?」と警戒するように後ろへ下がった伊之助は、「うどん!」と目の前に差し出されるどんぶりを、指先で何度かつつく。


「うどん…?」
「私の好物なの!山育ちじゃ食べたことないと思って、ここまで走って持ってきたんだよ!」


食べてみて!とどんぶりと箸を差し出したAに、どんぶりだけ受け取った伊之助が、距離をとったり近付いたりを繰り返しながらうどんの匂いをかぐ。


「伸びちゃうから早く!」


Aの言葉に、「お前、先に食え」とまるで毒味でもさせるかのように伊之助はAにどんぶりを押し返す。


「もう、仕方ないなぁ」


箸を使ってうどんをすすったAは、「はい、食べてみて」と再びどんぶりと箸を伊之助に握らせる。


「…なんだこれ?」
「お箸だよ。ご飯はこれを使って食べるの」
「手じゃ駄目なのか?」


いきなりは無理か、と諦めたAは、「手でもいいよ」と早く食べるように伊之助を促す。


まるで異物を触るかのように指先でうどんをつまんだ伊之助は、Aに背を向けて被り物をずらし、うどんを口に放り込む。


「どう?美味しいでしょ?」
「…。悪くない」


被り物を被りなおしたあと伊之助がAにどんぶりを返すと、「せっかくだから全部食べてよ」とのAの言葉に、「…こっち、見るなよ」とドスのきいた声で告げて、伊之助は再びAに背を向ける。


「どうして被り物で顔を隠すの?」
「隠してるわけじゃねぇ。…俺は、猪に育てられた。その形見を大切にしてるだけだ」
「そっか…」


悲しみなどの情緒は乏しいのか、特に気にした様子を見せないでそう言った伊之助は、うどんが気に入ったのかモリモリ口の中へ入れていく。


「…髪、綺麗だね」


そう言いながら伊之助の髪にAが触れると、伊之助は後ろ手に勢いよくAの手を払って、「勝手に触るな!」と怒号をあげる。


「ご、ごめん」


ほんの少しでも打ち解けた気でいたAは、少なからずショックを受けてしまいそれきり黙りこんで、伊之助がうどんを食べきるのを無言で待っていた。

4→←2



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (198 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
309人がお気に入り
設定タグ:鬼滅の刃 , 嘴平伊之助
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

チーズ(プロフ) - 唄子さん» コメントありがとうございます!そしてお返事遅くなり申し訳ありませんm(_ _)m嬉しいお言葉をありがとうございます!! (2023年4月10日 3時) (レス) id: 3890fde5bc (このIDを非表示/違反報告)
唄子 - 胸がキュンキュンです (2022年8月10日 21時) (レス) @page37 id: 585502c22b (このIDを非表示/違反報告)
チーズ(プロフ) - ナギサさん» コメントありがとうございます!伊之助の良さが表現できていたようで嬉しいです!ご期待に添えるように頑張りますので、よろしくお願いします(^^) (2020年12月9日 15時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
ナギサ(プロフ) - 伊之助のこの男らしさと可愛さが混ざった表現を…ごちそうさまです。続き楽しみに待ってます (2020年12月9日 6時) (レス) id: 4d18708d8c (このIDを非表示/違反報告)
チーズ(プロフ) - しがれっとさん» 嬉しすぎるお言葉ありがとうございます〜!!お兄様いいですよね!歳の離れた妹を溺愛しつつ、厳しいところは厳しい、しっかりしたお兄様でございます(^ω^) (2020年12月7日 18時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:チーズ | 作成日時:2020年11月24日 18時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。