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「伊之助!」
大きな声で名前を呼びながら伊之助に駆け寄るAの手にはどんぶりが握られていて、「なんだそれ?」と警戒するように後ろへ下がった伊之助は、「うどん!」と目の前に差し出されるどんぶりを、指先で何度かつつく。
「うどん…?」
「私の好物なの!山育ちじゃ食べたことないと思って、ここまで走って持ってきたんだよ!」
食べてみて!とどんぶりと箸を差し出したAに、どんぶりだけ受け取った伊之助が、距離をとったり近付いたりを繰り返しながらうどんの匂いをかぐ。
「伸びちゃうから早く!」
Aの言葉に、「お前、先に食え」とまるで毒味でもさせるかのように伊之助はAにどんぶりを押し返す。
「もう、仕方ないなぁ」
箸を使ってうどんをすすったAは、「はい、食べてみて」と再びどんぶりと箸を伊之助に握らせる。
「…なんだこれ?」
「お箸だよ。ご飯はこれを使って食べるの」
「手じゃ駄目なのか?」
いきなりは無理か、と諦めたAは、「手でもいいよ」と早く食べるように伊之助を促す。
まるで異物を触るかのように指先でうどんをつまんだ伊之助は、Aに背を向けて被り物をずらし、うどんを口に放り込む。
「どう?美味しいでしょ?」
「…。悪くない」
被り物を被りなおしたあと伊之助がAにどんぶりを返すと、「せっかくだから全部食べてよ」とのAの言葉に、「…こっち、見るなよ」とドスのきいた声で告げて、伊之助は再びAに背を向ける。
「どうして被り物で顔を隠すの?」
「隠してるわけじゃねぇ。…俺は、猪に育てられた。その形見を大切にしてるだけだ」
「そっか…」
悲しみなどの情緒は乏しいのか、特に気にした様子を見せないでそう言った伊之助は、うどんが気に入ったのかモリモリ口の中へ入れていく。
「…髪、綺麗だね」
そう言いながら伊之助の髪にAが触れると、伊之助は後ろ手に勢いよくAの手を払って、「勝手に触るな!」と怒号をあげる。
「ご、ごめん」
ほんの少しでも打ち解けた気でいたAは、少なからずショックを受けてしまいそれきり黙りこんで、伊之助がうどんを食べきるのを無言で待っていた。
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チーズ(プロフ) - 唄子さん» コメントありがとうございます!そしてお返事遅くなり申し訳ありませんm(_ _)m嬉しいお言葉をありがとうございます!! (2023年4月10日 3時) (レス) id: 3890fde5bc (このIDを非表示/違反報告)
唄子 - 胸がキュンキュンです (2022年8月10日 21時) (レス) @page37 id: 585502c22b (このIDを非表示/違反報告)
チーズ(プロフ) - ナギサさん» コメントありがとうございます!伊之助の良さが表現できていたようで嬉しいです!ご期待に添えるように頑張りますので、よろしくお願いします(^^) (2020年12月9日 15時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
ナギサ(プロフ) - 伊之助のこの男らしさと可愛さが混ざった表現を…ごちそうさまです。続き楽しみに待ってます (2020年12月9日 6時) (レス) id: 4d18708d8c (このIDを非表示/違反報告)
チーズ(プロフ) - しがれっとさん» 嬉しすぎるお言葉ありがとうございます〜!!お兄様いいですよね!歳の離れた妹を溺愛しつつ、厳しいところは厳しい、しっかりしたお兄様でございます(^ω^) (2020年12月7日 18時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:チーズ | 作成日時:2020年11月24日 18時