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結局朝食は簡単な煮物とぬか漬け、食後にぜんざいを食べて終わり、それでも十分に喜んでいた伊之助に、Aは大福を手土産に持たせてあげようと作り方を教えつつ、伊之助の為にせっせと作っていた。


「…それで、この生地に餡子を包むの」
「俺もやる!」


そう言って見よう見まねで器用に包んでいく伊之助は、途中で我慢できなくなったのか、包もうとしていた餡子を口に持っていく。


「んっ、うめぇな!」
「良かった。…伊之助はまだあまり甘いものに慣れてないと思って、甘さは控えめにしてみたの」
「…大福、か」


ふと何か思いついたらしく、Aの返答を聞かずにじっと大福を見つめ始めた伊之助は、「お前、梅子だったか?」と真面目な表情でAに問いかける。


「へ、梅子?」
「お前の名前!」
「え、…ああ、名前。Aだよ」
「Aか」


伊之助が自分の名前を呟くのを聞いて初めて、Aはそういえば、伊之助に一度も名前を呼ばれたことがなかったことに気付く。


「よし、覚えたぞ!Aは大福だからな!」
「え?」


全く意味の分からない伊之助の言葉に、Aが不思議そうに瞬きを繰り返していると、「大福!」と伊之助は得意げな表情で丁度包み終わった大福を掲げる。


「…大福…、」


何と言葉を返せばいいか分からず、Aが困惑の表情を浮かべていると、粉にまみれた真っ白な手で、伊之助は構わずAの頬をつまむ。


「…い、伊之助?」


笑顔の伊之助にむにむにと何度も頬をつままれて、ようやく伊之助が、自分の頬の感触が大福の皮と似ている、ということを言いたいのだとAは理解する。


「もう忘れないぞ!A!…合ってるだろ?A!」


よほど覚えたことが嬉しいのか誇らしいのか、何度もAの名前を連呼する伊之助に、Aはされるがまま頬をつねられながら、自分だけが抱いているであろう伊之助への気持ちを自覚してしまう。


慌てて伊之助から逃げるように視線を落とした先で、いつの間に握り潰してしまったのか、Aは無様な形になっている大福が目に入って、ただ大福を台無しにしてしまったことが残念なだけか、それともそれ以外か、自分自身でもよく分からないまま小さくため息をこぼした。

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チーズ(プロフ) - 唄子さん» コメントありがとうございます!そしてお返事遅くなり申し訳ありませんm(_ _)m嬉しいお言葉をありがとうございます!! (2023年4月10日 3時) (レス) id: 3890fde5bc (このIDを非表示/違反報告)
唄子 - 胸がキュンキュンです (2022年8月10日 21時) (レス) @page37 id: 585502c22b (このIDを非表示/違反報告)
チーズ(プロフ) - ナギサさん» コメントありがとうございます!伊之助の良さが表現できていたようで嬉しいです!ご期待に添えるように頑張りますので、よろしくお願いします(^^) (2020年12月9日 15時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
ナギサ(プロフ) - 伊之助のこの男らしさと可愛さが混ざった表現を…ごちそうさまです。続き楽しみに待ってます (2020年12月9日 6時) (レス) id: 4d18708d8c (このIDを非表示/違反報告)
チーズ(プロフ) - しがれっとさん» 嬉しすぎるお言葉ありがとうございます〜!!お兄様いいですよね!歳の離れた妹を溺愛しつつ、厳しいところは厳しい、しっかりしたお兄様でございます(^ω^) (2020年12月7日 18時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:チーズ | 作成日時:2020年11月24日 18時

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