美少年 【嘴平伊之助】

14 ページ14

・



「こうやって、衣をつけて…」
「こんなのが、本当にあの天ぷらになるのか？」


作り方を教えながら天ぷらを作っていくAは、「なぁ、これは何だ？」と台所中のものを手に取ってはAに問いかけてくる伊之助に、丁寧に答えてあげる。


「それは味噌だよ。お味噌汁も作ろうか」
「うえっ、しょっぺえ！」
「そのまま舐めたらしょっぱいよ！」


Aが慌てて水を手渡すと、奪い取るように受け取った伊之助は勢いよく飲み干して、「これは食ったら駄目なやつだ！」と味噌を指さす。


「違うよ、これは水に溶かして飲むの」
「そんなんで美味くなるのか〜？」
「なるよ」


次なる獲物を見つけたらしい伊之助は、今度は大きな壺の蓋を開けて「くっせぇ！」と大きな声を出す。


「ああ、それはぬか漬けって言って、野菜を漬けて食べると美味しいんだよ」
「ぬか漬け〜？人間は、こんなくせぇもん食うのか！？」
「ぬかを洗い落とすと臭くないよ」


Aにそう言われて野菜を一つ取り出し洗い流した伊之助は、「お前先に食え」とAの口元にきゅうりを差し出す。


「ふふ、久しぶりの毒味だね」


面白そうに笑ってそう言ったAは、きゅうりを一口食べて「うん、良い漬かり具合だよ」と伊之助に目を向ける。


「…。嫌いでは、ねぇな」


そう言ってぺろりと1本食べきってしまった伊之助は、「お前の家は初めて見るもんばかりだな！」と楽しそうな笑みをみせる。


「おじいちゃんのお家にはないの？」
「じいちゃんは、台所には入れてくれねぇんだ」
「そっかそっか」


それじゃあ次、これを油で揚げると天ぷらになるんだよ、と伊之助に言ったAは、まずは海老から油の中に投入して、音をたて始める油に伊之助は驚いたように飛び退く。


「なんだこの音は！？」
「油で揚げてる音だよ。熱いからあまり近付かないでね」


あまり近付かないでとのAの言葉に危険を感じたのか、伊之助はAにしがみ付いて「これは威嚇か？威嚇されてるんだな！？」とAを掴む手に力を込める。


「あはは、ただの音だから怖がることないよ」


伊之助の反応が何だか可愛く感じて、Aはどんどん食材を投入していって警戒を強める伊之助に、楽しそうな笑い声をもらした。

15→←13

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す