夢 【煉獄杏寿郎】

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「お先にいただきました」
「姉上！…どうですか？美味しそうですよね？」


見た目にもこだわってみました！と明るく笑う千寿郎の手には、美しく盛られたおつまみが握られていた。


「わぁ、美味しそう！」
「ふふっ、父上には安いお酒でも飲ませておきますから、心ゆくまで楽しんでくださいね」
「…ありがとう」


何が、とはお互い言わずにAはお酒を、千寿郎はおつまみを持って杏寿郎の部屋へと向かう。


「おお、来たか！」


部屋の中に入らず縁側に座って月を眺めていたらしい杏寿郎は、Aに気付いた途端明るく笑って、その太陽のような笑顔を照らす月の光に、Aは歪な美しさを感じる。


「では」
「うん。ありがとうね」


頭を下げて遠ざかっていく千寿郎を見送って、Aは杏寿郎にお酒を注いだあと杏寿郎と同じように大きな月を見上げる。


「今日は満月なんですね。…綺麗…」
「ああ。今日はより一層綺麗だ」


きっとAが隣にいるからだろう、と笑う杏寿郎に、恥ずかしさを誤魔化すようにお酒を口に含んだAは、その芳醇さとほのかな甘みに驚いたような声をあげる。


「…美味しい！」
「ああ、確かに美味い！」


そう言ってあっという間に一杯飲み終えてしまった杏寿郎に、Aは慌ててお酒を注ぎ足す。


「…そういえば、お酒を飲んでいるのは初めて見ましたが、お強いんですか？」
「そうだな…あまり飲まないから分からん！」


そう言うわりにぐいぐいと飲んでいく杏寿郎は、顔色も話し方も変わらずにひたすら飲み進めていく。


「…そうだ、行きたい場所は決まったか？」


どこかへ行くことは決定らしい口ぶりにAは可笑しそうに笑って、今日これからのことでいっぱいだった頭を、一生懸命自分が行きたい場所のことへと持っていく。


「綺麗な場所、…とか？」


元々幼い頃から東京観光をしてみたいとの思いが強かったが、それは随分前に叶ってしまったので、自分でも行きたい場所がいまいち分からずにAはそう言ってこてりと首をかしげる。


「それなら心当たりがある！ではそこにしよう！」


どこに、と思いつつも杏寿郎の中で勝手に話が進んでいくことにもすっかりと慣れてしまったAは、「はい」と笑顔でうなづく。


「それにしても…これは、強い酒なのか？」


身体が熱い、と杏寿郎に言われて改めてAが杏寿郎に目を向けると、熱を逃すようにはだけさせられた杏寿郎の胸元に、Aは慌てて目を逸らした。

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