Only you . (ページ16)

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「………その優しさに甘えたのは俺もそいつもだけど」

「…………」

「……あーあ。シケたツラしちゃって」

誰のせいだよ。なんだかムカついたから会話もほどほどにご飯を食べ続けてもう一杯ビールを頼んで。途中でお手洗いのため席を立った。

「でさあ、浮気されたんだろ？」

席に戻るなり突然そんな風に切り出されて。少し酔ってたからか、言ってしまっていいかという気持ちになる。

「………されたよ」

「別れんの？てか別れたんだろ？」

「……一応まだ別れてない」

ふーん、と言ってタバコを灰皿に押し付けた。灰のようになった何本かのタバコをぼんやり見つめる。

「…じゃあ別れたら俺とやり直そ」

「………は？」

「って言ったらどうする？」

「……どうする、って…」

「………嘘だけど。んじゃもう帰るか」

「え？ちょっと、お会計、」

「もう終わった」

店員さんに軽く会釈をして店を後にする拓弥。慌ててその後ろをついて行った。

あの拓弥が……先にお会計？って、そんな風に思ってしまうのも私が拓弥に勝手に抱いていたイメージのせいだろうか。拓弥だって本当はそういう優しさとか、男らしさというものを持ってて、私は拓弥をそんな人だと思わないまま、……酷い話だけど。

「お前さあ」

駅までの何分間か。黙って拓弥の半歩後ろをついて行っていると突然立ち止まった。

その言葉の続きを待って風に揺れる髪をぼーっと見ていた。でも拓弥はそのあと何も言わなくて、痺れを切らして「何？」と聞き返すとガシガシと頭を掻く。

「本当はめちゃくちゃいい女なのにな」

少しだけこっちを向いてそう言った。……男運も良くない、彼氏に浮気された私がいい女なんてすごい皮肉だ。

「お前は多分幸せになれるよ」

そう言って私の頭をくしゃくしゃと撫でた。拓弥に頭を撫でられるなんて初めてだった。

「じゃ、元気で」

「え？ちょ、」

タイミング良く私達の横に停まったタクシーに私を半ば無理矢理乗らせ、私の手に一万円札を握らせた拓弥。手を振る拓弥の姿がどんどん遠くなっていった。

……拓弥だって本当は、めちゃくちゃいい男だったんじゃないかと思う。

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