21 ページ21
.
「……これは俺とAの問題だから黙っててくれない?」
「…………無理だよ」
その背中を見てたら、少し安心できて。
…ユーキって、こんなに頼りになる人だったっけ……。
「Aは浮気なんてしてない」
ハッキリと言い放ったその言葉が、再び涙腺を刺激した。嘘も汚れもない彼がそう言った事が嬉しかったのか、守ってもらえて良かったという気持ちなのか。
「っ、………お前と付き合ってる間、ずっと…………ずっとお前の事しか見てなかったのに…」
「………なんで……なんでAを泣かせるような事したんだよ!!」
ふわふわしていて可愛らしい、という言葉がよく似合うユーキが、こんな声を荒げるとは思わなくて。
彼の顔を見ると、静かに涙を流していた。
「…………ゆう、き……」
どうして、彼が泣くのか。
彼は袖で涙を雑に拭うと、家の方へと走り去ってしまった。
残された私と海は、少しの間無言でその場に立ち竦んだままで。二人の間に流れる空気は淀んでいる。
「………ごめん、今日はもうこれ以上は無理」
そう言うと、海は溜息を吐いてくるりと背中を向けた。その背中にもう一つ、声をかける。
「海、」
「………」
「……多分私、海とはやり直せない」
「………あいつがいるから?」
そうだよ、と言い切ることはなぜか出来なかった。
私の中で、海よりもユーキの存在の方が大きくなっているのは確実なのに。
「………そ、わかった」
そう言った海は私に腕時計を差し出した。
……あの時、取りに行くはずだった腕時計。この時計を忘れてなかったら、今頃。なんて考えてももう遅い。
ぎゅっと握り締めて、遠くなっていく海の背中を見つめる。……きっともう、本当におしまい。
.
359人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
エリンギプール(プロフ) - 続きが気になります! 大変だとは思いますが、更新待ってます! 頑張ってください (2018年12月15日 23時) (レス) id: b1e7a3c80b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:な な . | 作成日時:2018年10月10日 23時