静かな涙が零れる。 ページ28
キ「え、」
「っあ、いえ!無理にとは言わないですけど…!」
ふと我に返る。自分はとんでもない事を口走ってしまったのではないだろうか。そう考えていた時には時すでに遅し、と言った感じだろうな。
「すみません、突然そんなこと…」
キ「いや、むしろ嬉しくって」
「え?」
私が想像していた返答と正反対だった。引かれたと思っていたけど、まさか喜んでくれていたなんて…
キ「なんか、本当に付き合ってみるみたいだね」
「っ…!!」
キ「あ、ごめん!冗談っ、だから…」
私は大馬鹿だ。今の彼の一言で大きく心が揺らいでしまった。もともと優しさから揺らいではいるけど、今回ばかりは大きくぐらっと揺らいでしまったのだ。
「本気には、してくれないですか…?」
そう、咄嗟に呟いてしまって、慌てて口を紡いだ。何を言ってるんだ自分。ただ相手に迷惑がかかるだけであって、寂しさを埋めたいだけなんでしょ、自分っ…
「ご、ごめんなさいっ、忘れてくださいっ…」
そうして彼から背を向けようとした途端、体がぐらっと傾いて、すぐにふわっと包み込まれた。
「へっ…?」
キ「本気になって、いいの?」
彼の口から零れたのは、至って冷静な声。とても冗談とは思えないような声のトーンだった。
キ「俺の方が、ずっと前から知ってて…たった1人の推しで…そんなしゃるとちゃんのこと、ずっと好きだった。けど、叶うわけないって思ってたよ…。」
「キヨさん…」
キ「お互いにファンだっている。けど、俺は幸せになってもいいのかな?本当に、本気にしていいの?」
キヨさんのファン思いな優しさが溢れている。確かに私を応援してくれるファンのみんなもいるけど、私は私。素敵な人と、幸せになりたいもん。
「キヨさんは、ゲーム実況者である以前に…1人の男性なんです。私も、踊り手である以前に1人の女なんです。幸せになる義務だって、あるじゃないですか。」
彼の温もりが少しずつ離れていく。そして、真剣な瞳が私のことをじっととらえている。私も彼のことを、じっと見つめた。
キ「俺はしゃるとちゃんのことが好き。俺の、彼女になってくれませんか…?」
その言葉に胸が温かくなる。嗚呼、本当の幸せってこの事なのかもしれない。胸が解けるように熱い…。
「私も、キヨさんのことが好きです。こちらこそ、よろしくお願いしますっ…」
思わず涙がこぼれた。彼の髪の毛から雫が落ちた。
今日が、私たちの付き合った大切な記念日。
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作者名:まい | 作成日時:2020年12月12日 19時