こんにちは愛する世界2【呪術廻戦】 (ページ1)

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095:交響曲第九番｢新世界より｣第二楽章『家路』ページ1

【ドヴォルザーク】

あの日から此処に居る。

｢ゆらり、ゆらゆら、ゆらふるべ｣

真っ暗闇の中で1つでも明かりが灯れば、それに音を立てて羽虫が寄ってくる。

｢(ざわざわとした音)｣

羽が光って反射して、1つの明かりが沢山に分かれていく。

｢まがつかみ、しずめたまへ、はらいたまへ｣

それは唯の習性。
生物としての、虫としての。
光に向かって飛んで行くだけ、それだけ。

そんな羽音に寄ってくるのは夜の鳥。
彼らは闇の中で耳を澄ませて羽虫を食べる。

｢(それも彼らの習性)｣

光が1つ消えると解る。
1つの命が彼らに捉えられたんだと。

弱肉強食の世界だからかは分からない。
それ等が当たり前の光景だから分からない。

｢(それだけじゃない)｣

見ていても何も感じない。
目の前に糧が有るから食べる。
光に寄ってくるから、集まっているから良い狩場になっているだけ。

明かりを守る為に食べる訳じゃないし、理由があってこうなっている訳でもない。

｢(この方が)｣

見ているのか、何なのか分からない光景が唯ある世界。
ずっと、ずっと此処に居て。

｢ゆらり、ゆらゆら、ゆらふるべ｣

暗闇を祓う方法は分かる。
でもいま其れが必要なのかは分からない。

｢(異常かもしれない)｣

でも、目の奥に焼き付いた綺麗な青。
大切な記憶。
大切な俺の全て。

鮮明な思考のままに祈る。

｢(幸せが訪れますように)｣

羽音や咀嚼音とは別の音がして、真っ暗闇に2つ目の光が灯った。

｢まなもつもの、ふるいたまへ、まもりたまへ｣

手毬歌を歌いながら漠然と様子を伺う。

その光に羽虫は寄って行かない。
寧ろ避ける様にして散ってしまう。

その位には眩しくて明るい光。

今居る空間に扉が開いただけ。
それですら居心地が良くなるのには充分だった。

覗くのは見覚えのある懐かしい姿。
ずっと傍にあると思ってた、ずっと待っていた明日。

｢グッモ〜ニ〜ン｣
｢『五条悟』｣

｢迎えに来たよA｣
｢『家入硝子』｣

2人とも一瞬だけ驚いた顔をして、それから笑顔になった。
俺はとても、とても嬉しい。

その気持ちを俺の言葉で伝えたい。

｢……待ちくたびれた。一緒に帰る？｣
｢あらヤダこの子！悟パパにお迎えありがとうは？｣
｢言わなくてもいいから｣

俺は五条も硝子も嬉しい。
でも、嬉しいのに何か足りなくて。
心から笑えているのに不思議と涙が出てくる。

｢…ありがとう硝子。五条も、ただいま｣

___がいない。
今これを言うのは駄目な気がした。