しふるふる、ゆらゆら。

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―――時は大正。

　上野から浅草方面へ帝都の雑踏を踏み抜き約一里。凡そ四、五十分歩いた人気のない裏路地に私の勤め先、改め雇い主の住む家屋があった。

　見た目だけなら豪華絢爛より倹約を好む、由緒正しい武家上がりの華族の別宅にも見える広くとも質素な木造の日本家屋。

　そこに私と先生は二人で住んでいた。

　私の仕事内容は主に可能な限りの屋敷の保全と清掃。先生は歴史と思い入れのある建造物だから、とだけしか教えて下さらない。

｢これは業だ｣

　初めてお会いした時に先生はそう言ったのを覚えている。それから、先生は魑魅魍魎の類が見えるのだとも。

　そして、私は忘れない。あの家の表札が｢夢枕｣であった事を。
　そして、私は忘れない。早く薄れるものを上品とす夢枕の香を。
　
　
　決して、私は忘れない。阿鼻叫喚の凄惨たる帝都の景色と、見慣れた家屋が崩壊した後の瓦礫の下に先生の遺体が無かった事を。
　
　
―――この物語は、私と先生の紛うことなき怪奇譚。
　
　

※全て創作、若しくは実体験です。(似通った話はあるかも)
※時代設定は大正時代ですが資料が少ない為、時代錯誤があります。(情報を御提供頂ければ幸いです)執筆状態：連載中