14:囚人のジレンマ(4) ページ14
この時から俺らはよく話す様になった。
｢綺麗な面して、危ねぇ奴｣
｢さっきも考えてたよ？｣
｢ならやってみろ｣
｢…いま大気中。降って来るの待ち｣
内容はお前の聞いた屋敷内の世間話だったり、愚痴やら、気を紛らわす程度のくっだらねぇ会話。
｢天変地異でも起こす気か？｣
｢いや、俺の予想だと空から女の子が降ってくる｣
｢はぁ？｣
｢そういうお伽噺ね｣
どっちも隠し事が有ろうが無かろうが、利害関係なしに腹を割って話すもんだから、いつの間にか表情や仕草で意図を読んだりしなくなった。
｢空想の話か…｣
｢…空から降って来た女の子と、地上で受け止めた男の子が発展した文明を壊すの｣
｢…それは、良いのか？｣
｢ハッ。俺には分かんない。物語には必要なんじゃない？｣
お前の声の抑揚。時おり挟まる楽しそうな笑い声。
これだけで、大体どんな状態かは想像出来たし、俺はその気楽さが好きで、気持ちが楽になった。
｢冷めてんなぁ｣
｢そうでも無いと、こんな所。まともで居られないよ？｣
｢でも、お前よ…。結構きてねぇ？｣
｢…何が？｣
それでふと顔を見ると予想通りのお前がいて、特に深い意味はねぇけど、穏やかな雰囲気に荒れた気分が落ち着いた。
｢さっき、死んでも。みてぇな｣
薄ら笑いを浮かべながら、ボケっと空を見上げるお前は何処か楽しそうだった。
｢…“術師にあらずんば人にあらず”…だから俺は、禪院でも人でも無い。ただのA｣
ゆっくりと紡がれる言葉には、まだ続きがあるはず。何となく、邪魔せずに待ってようと思う。
｢でも、最初から死んでるなら…。死ねないよね？｣
｢…変な理屈だな｣
｢…だからこそ生き続けて、死ぬ瞬間に人間だって認めさせてやる。ってね！？フハハ｣
高らかに笑い出したお前に狂気じみたものを感じる自分と、良いぞもっとやれと囃し立てる自分。
｢そんな風に考えてるとさ、いつ死んでも良い様に楽しく過ごせる訳｣
｢…前向きな馬鹿｣
｢アハハ！馬鹿で上等！んで楽しい瞬間に死にたいの！俺は！｣
｢ハハッ…。あっそ｣
楽観的なのか、退廃的なのか、分からない微妙なラインに立ってるお前は、俺からすると綱渡りのピエロに見える。
｢それで？そっちは？｣
｢…俺か？｣
｢他に、誰かいる？呪霊いるの？｣
｢あーもう。いねぇよ今は｣
話してるだけで調子が狂う奴。変な奴。
｢関係ないけどね！ッハハ！｣
｢…腹立ってきた｣
｢眉間にシワが寄ってるよ？｣
｢…その綺麗な面、俺に貸してみろ｣
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作者名：ゆきみ大福 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/mutsuki159/
作成日時：2021年6月12日 11時
