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0026:Give It To The Universe feat. MAN WITH A MISSION ページ27

【布袋寅泰】

Aは猫か狐に似た形状の夏油が入った、控えめに言っても可愛く無い呪骸を抱えながら歩く。
その足取りに迷いはなく、ひたすら真っ直ぐに学長室を目指していた。

「元から1人。…寂しいも、分からない」

1人と1体は再び会話の無い静かな時間を過ごす。
時折、夏油は腕の中からチラりと彼を見上げても視線が交わる事は無い。

彼らの眼前に広がるのは青々と生い茂る草木。
鼻先を掠める湿った土の匂いは雨のせいか、木の幹は心做しか色濃く見え、その葉はテラテラと色艶良く光る。

高専の森林地帯を抜け、整えられた道を歩き、寺社仏閣を横切ればあと少しで学舎。
恐らくはこれが彼らにとって最後の時間になる。
しかし、何も言葉に出さない。

互いに何かを考えて有るのか、あえて話さないのかは分からない。
正直に肌で感じる空気感だけを言えば、決まった別れの時までを惜しんで居るかの様な、物悲しい沈黙。

たどり着いた学長室の扉を開けば夜蛾が2人を待ち構えていた。
沈黙を守ったままAは何の躊躇いも無く呪骸を夜蛾に差し出し、彼が受け取るのを待つ。

「何か言い残す事はあるか」

互いの目線が合った夏油と夜蛾。
夜蛾は夏油に最後の時間が来たと遠回しに伝えると、その言葉に対する反応をじっと待っていた。

「〈…赦しを得たいとは思わない〉」

呟く夏油の甲高い声だけが室内に響く。
呪骸に成り代わった彼の表情には微妙な変化しかなく、それだけでは何を物語るのかは予想できないが、

「〈Aには全てを話していればと、何度も後悔した〉」

紡がれて行くのは彼の遺言に似た何か。

「〈何かが変わったのかも知れないと…〉」

声の抑揚から伝わって来るのは、決して楽しげな雰囲気では無い。
寧ろ厳かに、確かに感じる苦々しさが混じる過去の回想。

「〈あの日。Aだけが私を諫める事が出来たし〉」

この場で語られてゆく夏油の話の殆ど、Aに向けたメッセージを孕んではいても言った所で今更もう遅い。
蒔かれた火種は鎮まること無く、全て燃え盛った。

「〈Aが止めれば思い留まれる。確かな理由があった〉」

傍から見れば言い訳にすら聞こえる彼の言葉を聞いて、夜蛾はそうかと小さく呟くとAの手から呪骸を受け取ろうと、手を伸ばす。

「〈同じ思いをさせたくない…〉」

あと少しで体を受け渡されるその時、夏油は言い放ちAの手をよじ登って行く。

「〈私はAと共に居たい!〉」

夏油の宣誓は高らかに轟いた。

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ゆきみ大福(プロフ) - ボブさん» コメントも評価もありがとうございます。文章力が足りなくてすみません(´;ω;`)分からない所を教えて下されば!解説作ります! (2021年7月30日 22時) (レス) id: 3362b7a468 (このIDを非表示/違反報告)
ボブ - お話少し難しいけど、読んでいて楽しいです!毎日更新楽しみにしながら過ごしています!星の一番右端押しました!! (2021年7月28日 14時) (レス) id: 95a51c0b56 (このIDを非表示/違反報告)
ゆきみ大福(プロフ) - 絶対に出て来るなぁ。笑える。低評価あざーす (2021年4月28日 12時) (レス) id: 3362b7a468 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ゆきみ大福 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/mutsuki159/  
作成日時:2021年4月27日 23時

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