【tkrv】梵天と解体屋 (ページ1)

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彼は解体屋ページ1

━ ＮＯside

「♪♪♪」

薄暗い地下室に解体屋は居た。
真っ白な手術着とゴム手袋を赤黒く染め、飛び散る血も気にせず呑気に鼻歌を奏でる。

プチプチと鈍い音を鳴らしながらメスで裁かれる“それ”は、数時間前までは人だったであろう塊。

「あｯ」

解体屋の腰に何かが巻き付く。
それと同時に手から滑り落ちそうになる球体。

間一髪でもう片方の手で優しく包み込み落とさずにすんだようだ。

解体屋は安堵と同時に腰に巻き付く腕に嫌気がさす。

「生臭ェ〜」

頭の少し上から聞こえる聞きなれた声に「春千代」と向きもせず話しかけた。

「春千代じゃなくて春ちゃんな！！それより早くしろよ〜臭すぎて鼻がもげそうだわ」

春千代は解体屋の首元に鼻を擦り付けながら文句を言う。
解体屋の目の前にある塊は春千代が連れてきた者だ。

呑気に自分だけ煙草を吸いに外出していた癖によくそんな事が言えたものだ、と解体屋は思ったが後々面倒なので黙って手を動かす。

・
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「春ちゃん」

「あー？終わったか？」

あれから数十分後、ようやく作業が終わった解体屋は口を開いた。

男にしては高く、女にしては低い声が静かな地下室に響く。

解体屋の呼ぶ声に春千代は持ってきていたクーラーボックスをベッドの空いたスペースにのせる。
しっかりと封をされたビニール袋には綺麗な文字で書かれた付箋が貼られている。
もちろん、塊の元の顔写真も合わせて。

それを優しくクーラーボックスへ並べていく。

「うっし！俺はこれ渡してくるからクソ兄弟のどっちかが迎えに来る前にそのクセェ血落としとけよ」

血の付いていない頬をスルりと春千代は触れた後、すぐに地下室から出ていった。

解体屋は血の着いた手術着とゴム手袋を外し近くにあったソファに倒れるように座る。

それはまるで充電の切れたおもちゃのようだった。

「…」

解体屋は解体を仕事と思っていない。
解体屋は解体が趣味であり生き甲斐であった。
解体屋は解体で生を実感していた。

段々と重くなる瞼に抗うこと無く解体屋はそのまま眠りについた。
集中力が切れた瞬間、人は疲労を補う為に眠くなると言うが解体屋もまた人だった。

その後、迎えに来た灰谷兄弟によって起こされること無く掃除も着替えも全て済まされたのは別の話。