room:12 ページ12
.
「では、失礼します…」
ソファに座ってる彼に一礼し、もう絶対来ることはないと思いながら足早に玄関へと向かうと
「またね」
まるでまた会うのを予期しているかのように、彼のやや甘ったるい声がそう言った。
苦い声色じゃないその声に、ドキリとしたのは不覚。
それが、何故だかこびり付いたように脳裏から離れなかった。
ただのお隣さん、それ以外にない。
浅くて微妙な関係。
その確かでぼやけた関係が“このとき”から変わってしまったことなんて、知る由もなかっただろう。
.
「Aさん！おはようございます！」
「あ、櫻井くんおはよう」
「あれ？今日なんか化粧濃くないですか？」
同じ部署の一つ後輩の櫻井くんの大きな目が、私の顔をジッと見ながらそう言ったせいで
自分がどれだけ昨日お疲れだったのか、昨日のことをどれだけ悔んでいたのか
改めて実感させられた。
ひどい目の下のクマを隠すようにと、いつもよりも厚くファンデーションを塗ったのを見事に櫻井くんは見破った。
「濃くない！気のせいだよ」
「そうですかね？でも綺麗なのには変わりませんよ」
「櫻井くんも相変わらずイケメンだね」
「ホントにそれ思ってますか？」
「思ってるよ(笑)」
櫻井くんは朝から爽やかな顔でははっと笑った。
それが本当に爽やかで、少し癒される。
「あ、Aさん！今夜前言ってた美味しいって話題になってたお店行きません？」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2126人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：妃紀
| 作成日時：2017年12月22日 18時
