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「何で泣いてんの？」
マンションのエントランスに着くと、背後から聞き慣れない声が聞こえた。
その声の宛ては、私に対して向けられたものだとすぐに勘付いてしまうのは自然と。
エントランスに来るまで、誰一人いなかったから。
それに・・・
化粧がグチャグチャになるほど、久しぶりに綺麗に引けたアイラインが滲むほど
驚くほどに私は泣いていたから。
鏡で確認なんてしなくても、電車の窓に映った影で分かった。
こんな顔を誰にも見られたくない。
そう思って、背後から聞こえた声を無視して、オートロックの鍵を回そうとしたときだった。
「失恋？」
その人は、私の痛いトコを平気で突いてきた。
失礼にも程がある。あり過ぎる。
だって、見ず知らずの初対面の人に向かってこんなデリカシーの欠片もない言葉を言うなんて。
・・・って、でも同じマンションなら顔見知りの可能性もあるのかな。
お隣さんだったらどうしよ。
そんなことを頭の中でぼんやりと思いながら、アルコールの回った鈍い頭で思考を巡らせている最中だった。
お酒を含んだ身体が、ゆらゆらと意識を飛ばし
あ、だめだ・・・と思ったときにはもう手遅れ。
オートロックの解除のために取り出した鍵が、チャリン、とフローリングに落ちた音がして
鈍い頭と、フラフラな身体がスローモーションのようにフワッと浮いた。
アルコールの回った身体はその反射に耐え切れず、倒れる！そう思って、抗うことなく瞬時にギュッと目を瞑った。
だけれども
「・・・あっぶねぇな！」
フワッと浮いた身体は、そのまま固いフローリングに打ち付けられることなく、誰かの温もりによって包まれた。
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作者名：妃紀
| 作成日時：2017年12月22日 18時
