瞬きの内に永遠はあるか ページ4
轟音。怒号。第28裏図書館は瞬く間に廃墟になった。
「先輩、そろそろ俺たちも――」
「お前は行け。俺はもう一周してくる」
――というのも、したのは協会側の人間であるわけだが。
撤退が宣言されたのは本日の明朝。幼い者や老いた者から撤退が始まり、また、ここを政府軍の拠点にされては困るという理由から嫌がらせも兼ねた施設の破壊が進んだ。瓦礫の下へ目を凝らせば、乱雑に散らばった紙やぱっくりと開いた表紙と裏表紙が見える。本より人命が大事。当然だ。いまこの隊に本まで守る余裕はない。――しかし、文字を守り、取り戻すための戦いの端で、ゴミのように散らかされた本がいる。何が正しいのか、もう彼には分からなかった。
既に隊員も退避を始める段階まで来ている。しかし、何やら胸騒ぎを覚えたヒビキは尚ここへ残り、見回りを行っていた。実際、退避する機会を失い途方に暮れていた市民を数人発見し、残っていた職員に託して逃がしていた。そしてその度、彼の後ろをついて回っていた後輩は迷惑そうな表情を隠そうとしていなかった。言葉にするなら、ただでさえ足手まといなのに、という所か。
「……何でついてくるんだ」
「『先に行け』は別に命令じゃないですよね？」
涼しい顔で後輩を返した。何か言い返したくなったが、そんな時間も惜しい、と思ったのだろうか。勝手にしろ、と彼は大股で歩いた。
「隠れろ」
声を顰め、後ろに続く後輩の動きを制しながら曲がり角で止まった。その視線の先にいたのは、政府軍の者だった。一人。顔は知らないため、おそらく昇華隊員ではない。銃を構えている。既にただならない空気をまとっているが、こちらに気がついている、というわけではなさそうだった。
「ほら、早く本を置くんだ。そうしたら見逃してあげるからね――いや、見逃しちゃダメか。教育場に入る前に、文字――ええ、どうしたらいいんだろこのケース」
不安定な猫なで声でその男は語りかけていた。そして、銃口の向いたその先には。
「命令だ。あの子の目を覆って退避に入れ」
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