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はら、と二人の視界に白いものが見えた。一枚、日芽の足元に落ちてきたものを拾って見た。ヒビキはそれを後ろから覗き込む。
それを皮切りに、はらりはらりと控えめながらも次々と紙は落ちていく。
「終わりってことかあ」
「いや、大変なのはこれからだろうな。考えるだけで頭痛がする」
「戻るつもりなん？ どの面下げて？」
「この面だ。俺は、俺が――こっちが正しいと思ったから来ただけで。また、俺が正しいって思う方に戻るだけだ」
正しいと思ったから。
なんだ、そんなことだったのか。日芽は拍子抜けをした。そんな理由のために、私は、彼は、さんざん悩まされたのか。言われなきゃ、一言言ってくれさえすれば、分かったことだったのに。
――ああ、ううん、そう、言わないと分からないんだったら、私だってそうか。こんな機会じゃないと言えない気がするから言っておこう。ふ、と日芽は唇に指を当てた。こんなときに限って喉のざらつきは現れない。自分で考えろってことか。
許さない。違う。許せない気がするけど、何を許せないかが分からない。行かないで。いや、別に行ってくれていい。むしろ行け。それは、私にはできないことだ。好き？ 考えただけで鳥肌が立った！ 無理。
「――まあ、でも、すごいと思うわ」
「何だ、急に」
「私には絶対できんことじゃけんね」
本当はもっとたくさんあるはずだけど、ひとまず言葉にできたのはそれくらいだった。何だ案外簡単じゃないか、と空を見上げる。反応を見るのは簡単そうじゃなかったから。
はらはら、と無数の紙が舞い降りてきていた。満開の桜が嵐にあった日のように。
そう、人々はもっと語るべきなのだ。言われないと分からないことすら分からないから。花は咲けば必ず散っていくことが。散った花も季節が廻れば再び咲くことが。けれど、その花は決して去年の花と同じではないことが。季節が廻ればまた春が来ることが。その春が、去年の春ではないことが。
地面に落ちていた紙を、日芽はわざと踏みつけて進んだ。
文字がただの線にすぎなければ、歌だってただの声にすぎないことが。
けれど、そんなただの線が。ただの音が。空気の震えが。愛おしくて仕方がない瞬間があることも。それがなければ息さえできないような瞬間があることも。そんなことすら、私達は、語り続けなければ分からなくなってしまうのだ。
終_人生が一度きりであることへの抗議→←終_花に嵐と喩ふるならば
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