花に嵐の ページ4
「果たして、あれは成功したと言えるのでしょうか」
空っぽになったのは席ばかり。机上にはやりかけの仕事に未審査の書類と、まるで帰らないことなど予想していなかったような散らかり具合のデスクを整理しながら、アサヒはぽつりと呟いた。
昇華隊カブラギ班班長、カブラギカンジの死から一週間。自らの死と引き換えに門外に出た書籍の回収を成功させた彼には、現在褒章の授与が検討されているらしい。数冊の本は、点検の後に既に書架へと戻された。
「成功も何も。……きっと、全てが理解できている奴なんて、どこにもいないだろ」
同じくデスク整理をしていたヒビキが、いつもより潜めた声で返す。大きな声で言えないのには理由がある。班長の死後に残された隊員たちには、同じ昇華隊員にすら明かせない秘密を共有していた。
回収した本を門内へ持ち帰ってしかるべき手続きを終えた後、彼らが最初に開いたのは班長のロッカーだった。開けるのも目的のものを探すのにも一苦労だったが、巧妙に偽装された中に「それ」はあった。
人の狂気。残虐性。彼らが持ち帰った本と同じ、「人の所業とは思えない」歴史や出来事、心情を記録した本のタイトルと思しきものがずらりと並んだリストをはじめとして、統一政府が「焚書」を行っているという都市伝説めいた内容を裏付ける資料がいくつも発見されたのだ。あんな、書く仕事とは無縁そうな人間の所持品から。それも、政府にとって不利であろうものを、見つかってしまえばこんなにも堂々と。こんなところで嘘をついても仕方ない。けれど、嘘であってくれ。しかし、そうであるならばあの日の出来事はいったい、何なのだろうか。
人の頭というのは便利なことに、ありとあらゆる出来事を適当に結びつけ、自分が受け入れるに堪える「物語」を作るようになっている。あの日以来、カブラギ班の班員の中には、多少の差異はあるものの一つの共通項を持つ物語が作られつつあった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 4人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
