叡智の門は開かれない (ページ2)

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「正確に言えば今でも『ない』はずです。いま、分派も含めた宗教組織から続々と抗議の声が上がっています」
「ついでにウチへの援助の申し出も相次いでいますね。これほど集まったのは前代未聞です」
　協会の役員から次々声が上がる。おそらくですが、とその中の一人が続けた。
「先日より327地区で災害、964地区で大規模蝗害、815地区で賊の暴走と災厄続き、政府の対応は後手後手で求心力は低下するばかりです。このような状況で裏図書館が狙われた事件、過去にありませんでしたかな」
「第4裏図書館の再演をするつもりですか、政府は」
　年若い協会員が返した。第4裏図書館の陥落は、現在のように裏図書館が規模を縮小せざるを得なくなった原因だ。かつて裏図書館への猛攻が起こったときも、災害に不作と各地を困難が襲った時期だった。当時その原因、とまではいかずとも裏図書館を国民共通の仮想敵として国家は大いに盛り上がった。その勢いで文字への拒否反応を引き出す薬の義務化も成立し、統一政府は「叡智の門」完成以来の盛時を迎えた。
　此度もそれを目論んでいたのだろう。が、前回と今回では状況に少しずつズレが生じていた。裏図書館がある以外は政府に貢献をしていた平和な地区。奇襲でほとんど抵抗する間も与えられなかった裏図書館。上がる抗議の声は宗教団体によるものだけではない。政府の失策の影響を受けた土地から声が少しずつ上がり始めた。
『どんなものかは知らないが、いったい『文字』が我々の何を救うのか』
『文字とやらは、我々の父母を子をよみがえらせ、このくちた腹を膨らませるのか』
『人を救わぬ文字など、いったい信じ守る価値があるのか』

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