三十 ページ30
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もういい感じに酔いが回ってきたところで、
「私だって、一応人並に恋愛してきたんですからぁ・・・」
ぴくりと耳を集中させる。
隣のAの酒のペースは早い。
それに比例するように、顔も耳も赤く染まっていた。
映ろな目をしたまま、頬を緩ませて言う。
「地元で同じクラスの人とか友達のお兄ちゃんとか、こっちに出てきてからも何人か…あっ付き合ってみてから私が浮気相手だったみたいな最悪な元カレもいましたけど」
聞いてもいないのに、ぺらぺらと恋愛遍歴を語る。
人並みの付き合いはあるのだろうとは思っていたが、それなりの経験数にふうんと声が出る。
それに気づかず、呑気に彼女は話し続ける。
そんなに多弁なほうでないはずだが、酒の力に触発されているのだろう。
「お前、いわゆる駄目男製造機なんじゃねえの」
「はあ?!失礼なあ。私はただ好きで一緒にいただけですよ」
話を聞くに、どうやら悪い思い出のほうが多いような気がする。
そこを指摘すれば、図星だったのか、Aの眉間に皺が寄る。
「人たらしっつうか、優しすぎるっつうか、そういうとこあるじゃねえか。
それが災いしてんだろ」
そう言うと、急にしゅんと黙り込む。
言い返してきた勢いも、みるみるうちになくなっていく。
しまいには、瞳を潤ませ始めた。
(やべえ…酔っ払い、面倒臭え)
慌てて、お絞りをAの顔に押し付ける。
目を逸らして、もう残り少ないグラスに口をつけた。
女は布の隙間から、構ってほしそうにこちらを見ている。
思わず顔をしかめながらも、身体を彼女に向けた。
「友達にもよく言われてたんですよ。Aは優しすぎるって」
「よく分かってんじゃん。さすがダチだな」
「恋人でも友人でも、信頼してるから好きだから、何でも許しちゃう…そんなことないです?」
潤んだ瞳がまっすぐにこちらを見ている。
この女はどこまでが策士なのか。
そう疑いの目を向けつつも、そんな器用なことはできないとすぐに自分の脳で打ち消されていく。
かつての自分自身の行いに落ち込む彼女に、また酒の入ったグラスを差し出す。
「そんなに後悔すんなら、これ飲んで一回忘れちまえよ。
俺が許してやるよ」
渡したグラスに自分のグラスを当て、
「Aのその優しさがあるから救われた奴も、好きになってくれた奴もいんだろ。
俺は自信持っていいと思うぜ」
銀さん調べな、と呟いて、笑みを向けた。
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Nattu(プロフ) - 慎さん» 慎さんん;;また来ていただいて嬉しいです;;同じ状況だ…萎えますよね;;慎さんの作品近々見に行きますね!^^いつも嬉しいお言葉ありがとうございます❤️🔥 (2022年7月15日 20時) (レス) id: 8022db4695 (このIDを非表示/違反報告)
慎(プロフ) - ランキング入りおめでとう御座います👏私も最近溜めていたはずの話が知らない間に消えてて萎えました…😢お忙しいとは思いますが無理のない範囲での更新、頑張ってください。今作も大好きです😊🥀 (2022年7月15日 19時) (レス) @page7 id: 101fab3c19 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Nattu | 作成日時:2022年7月4日 22時