二十九 ページ29
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(久しぶりに差し呑みなんてしてる)
隣で旨そうに酒を舐める銀時を横目に唐揚げに手を伸ばした。
偶然、銀時と会い、買い出しに行くことを伝えると、
『じゃあ、一杯行かね?お前の奢りで』
と提案してきた。
男には助けてもらった借りがある。
多少自分の恰好も気になったが、高級レストランでもお洒落なカフェでもない。
別にいっかという結論に落ち着き、
『いいですね。お腹空きました』
一つ返事で承諾してしまった。
店内はがやがやとにぎやかだ。
街の皆に愛される店といったような雰囲気に、着てきた格好で問題なかったと安堵した。
しかし、それは一瞬のことで。
「ふうん。お前、家じゃそんななの」
すぐに少しでもちゃんとした服で来ればよかったと思わされた。
デートでないにしても、異性と差しで飲むというのに気にならないはずがなかった。
その恥ずかしさを飲み込むようにして、出てきたばかりの酒を勢いよく飲んだ。
「だって、スーパー行くだけのつもりで来たんですもん。仕方ないじゃないですか」
「じゃ、断りゃよかったじゃん」
言葉が詰まる。
(意地悪なこと言わないで)
そう文句を言いたくなるのをこらえて、
「飲みたい気分だったんでよかったんです」
わざとらしく歯を見せた。
銀時はそれを察したのか、鼻で笑って肴に手をつけた。
最初は少し嫌だったこの時間も、だんだんと話は盛り上がっていく。
思えば、銀時とこうして話すのは初めてだった。
「お前さ、あんなとこでバイトしてねえで、配信ってやつを本業にすりゃあいいのに」
「あれだけじゃ生きてけないんですよ」
「へえ。いくら儲かんの、あれ」
神楽や新八の前で話しずらい生々しい話も、酒の力でするすると話してしまう。
男と出会って数か月。
仕事の付き合い以上のものはほとんどなく、お互いのことはあまり知らないままだった。
生まれのこと。
仕事のこと。
趣味のこと。
色恋のこと。
「そういやあ、お前、彼氏とかいないわけ。
ファミレスにネット世界、出会いなんて無限だろ」
互いの手元には、すっかり空になったジョッキグラスが数個。
赤ら顔で顔を見合わせ、へらへらと笑ってばかりだ。
そんな時に切り込まれたナイーブな話題。
「いるわけないじゃないですかあ。差しなのに、どすっぴんでこんな格好してくる女ですよう。ははは」
到底、まともな返答なんてできるはずもなかった。
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Nattu(プロフ) - 慎さん» 慎さんん;;また来ていただいて嬉しいです;;同じ状況だ…萎えますよね;;慎さんの作品近々見に行きますね!^^いつも嬉しいお言葉ありがとうございます❤️🔥 (2022年7月15日 20時) (レス) id: 8022db4695 (このIDを非表示/違反報告)
慎(プロフ) - ランキング入りおめでとう御座います👏私も最近溜めていたはずの話が知らない間に消えてて萎えました…😢お忙しいとは思いますが無理のない範囲での更新、頑張ってください。今作も大好きです😊🥀 (2022年7月15日 19時) (レス) @page7 id: 101fab3c19 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Nattu | 作成日時:2022年7月4日 22時