二十三 ページ23
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「Aちゃん、あっちの席についてくれる?」
「…はい」
目の端には例の客。
とりあえずは違う席につき、様子を伺うことにした。
例の席にはおりょうがついている。
慣れた手つきで酒を注ぎ、楽しそうに談笑している。
やはり、長く勤めている従業員には手を出さないようだ。
「Aちゃん、新人さんだっけ」
「は、はい。そうです。お手柔らかにお願いします」
「はは、可愛いねえ」
ついた席は運よく人当たりのよい常連客。
新人と聞き、隣の席の男の目がちらりとこちらを見たのが見えた。
自然と背筋が伸びる。
「無理しないでいいから。僕はこうやって一緒に飲めるだけで嬉しいし」
幸いにも、この客の対応は温かい。
ずっとどきどきと鳴る心臓が少しだけ落ち着いていく。
ははは、と楽しそうに笑う彼の声に不思議と安心する自分がいた。
そんな時、
「Aちゃん、ちょっと」
こっそりと耳打ちする妙。
「あのお客様がお呼びよ」
視線の先には、にこにこと笑う例の男。
何も知らなければただ笑っているだけのはずが、今はその笑みが怪しく見えて。
「Aちゃん、もっと話したかったけど先に行っといでよ。また、指名するから」
にっこりと笑う彼の笑顔が優しくて、胸がきゅっと締め付けられる。
重い腰を上げ、例の男に近づいていく。
男は楽しそうにこちらを見ている。
その裏にはきっと企みがあるのだろう。
落ち着いてきた心臓も、さっきのことがなかったかのように煩くなっていく。
「こ、こんばんは。ご指名ありがとうございます」
何もないように振る舞いたいにもかかわらず、声は震えている。
「すみません。このこ、緊張してるみたいで」
すぐに妙が謝罪し、Aの頭を軽く押さえた。
それを見て、男は高らかに笑った。
流れるように、彼の隣に座り酒を注ぐ。
男の舐めるような視線が、ぞわぞわと寒気に変わっていく。
「君、新人さんなんだって?」
「ええ。つい先日入ったばかりで。Aと申します」
名刺を出そうと胸元に手をかけた時、
「ひぅっ…」
その手を男は掴む。
男の手は少しだけ胸元に触れて。
「へえ。Aちゃんかあ。
今日は、よろしくね?」
嬉しそうに口角を上げた。
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Nattu(プロフ) - 慎さん» 慎さんん;;また来ていただいて嬉しいです;;同じ状況だ…萎えますよね;;慎さんの作品近々見に行きますね!^^いつも嬉しいお言葉ありがとうございます❤️🔥 (2022年7月15日 20時) (レス) id: 8022db4695 (このIDを非表示/違反報告)
慎(プロフ) - ランキング入りおめでとう御座います👏私も最近溜めていたはずの話が知らない間に消えてて萎えました…😢お忙しいとは思いますが無理のない範囲での更新、頑張ってください。今作も大好きです😊🥀 (2022年7月15日 19時) (レス) @page7 id: 101fab3c19 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Nattu | 作成日時:2022年7月4日 22時