十九 ページ19
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目の前の女は口をぱくぱくとさせながら固まっている。
「お似合いですよ!サイズも問題なさそうですね」
二人の間に流れる微妙な空気を遮るように、店員は話しかけていく。
Aはぎろりと銀時を見た後、にこやかに店員と話している。
(女って怖え…)
店を出、またAと並んで歩く。
その手には紙袋が増えている。
目も合わさずに口を尖らせていた。
「よかったじゃん。欲しいもん買えて」
「…よかった、ですけどう」
不満そうな声を上げる女。
大方予想はつく。
「馬鹿にするなら、店員さんいる前じゃなくてもいいですか」
そう言うAの目には薄らと涙を浮かべている。
別に馬鹿にした訳ではなかった。
Aが明らかにあの服を欲しがっているのは目に見えて分かっていたし、単純に着ているところが見たいと思っただけなのだ。
「あの場で馬鹿にするやついるかよ。本心だよ、本心」
「はいはい。お世辞でも嬉しいですよー」
そんな彼女は一切信じる気もないようで。
改めて財布の中身を確認して、緊急用のために入れていた札があることに気づく。
「悪ぃ。シャンプー切れてたの忘れたわ。ちょっと寄っていいか」
近くのドラッグストアに入り、辺りを見回す。
後ろからついてきたAは入口付近で立っている。
急ぎ足で店内の案内板を見て、そそくさと移動する。
そして、訳も分からないままそれを手に取ってレジに向かう。
「待たせた。助かった」
「いえ。シャンプーないの死活問題ですもんね」
Aはへらへらと笑う。
そんな呑気な彼女にそれを押し付ける。
また、丸い黒目は大きくなった。
「やる」
自分でもあまりにぶっきらぼうすぎると思った。
目を背け、受け取るように促す。
彼女は手に取り、
「アイシャドウ…どうして」
首を傾ける。
「最近テレビでよくCMしてる奴だろ。色はよく分かんねえけど、人気らしいじゃん」
「…へえ。なんだか意外でした」
Aは感心したように声を上げる。
「ありがとうございます。私、この服もアイシャドウも似合うような女になりますんで」
「おう。やってみろ」
互いに舌を出して笑う。
(やっと『友達』になれた気がするわ)
同僚からの昇格した彼女の嬉しそうな顔を見、胸が高鳴っていた。
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※アイシャドウを贈る意味…綺麗な景色を見てほしい。友達以上の関係になりたい。
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Nattu(プロフ) - 慎さん» 慎さんん;;また来ていただいて嬉しいです;;同じ状況だ…萎えますよね;;慎さんの作品近々見に行きますね!^^いつも嬉しいお言葉ありがとうございます❤️🔥 (2022年7月15日 20時) (レス) id: 8022db4695 (このIDを非表示/違反報告)
慎(プロフ) - ランキング入りおめでとう御座います👏私も最近溜めていたはずの話が知らない間に消えてて萎えました…😢お忙しいとは思いますが無理のない範囲での更新、頑張ってください。今作も大好きです😊🥀 (2022年7月15日 19時) (レス) @page7 id: 101fab3c19 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Nattu | 作成日時:2022年7月4日 22時