運命のヒト【さとみ】

指輪 ページ34

Aさんが再び家に来た。

俺は窓を閉めて玄関に向かう。

少し肌寒い。

A「ごめんね…何度も」

走ってきた様子のAさんの髪は乱れていた。

昨夜を思い出す。

お邪魔します、も早々に
部屋の中を探し始めた彼女。

ごめんね、
その大事な物、俺が持ってる。

俺はさりげなくポケットに手を突っ込んだ。

A「あれ…どの辺だっけ…」

行為現場を思い出してるらしい。

ソファやらテーブルの下やらを探している。

さとみ「ない？」
A「うん…」

俺も一緒に探すフリをする。

俺、いつからこんな悪い男になったんだ。

…Aさんのずるさが移ったんだな、きっと。

さとみ「また探しとくよ」
A「……」

少し焦った様子のAさん。

そんなに大事なのか。

A「…うん、お願い」

俺をチラッと見てから口元だけ笑んだ。

こりゃ勘付いてるな。

でも俺からは折れないもんね。

用が済んだAさんは
これまた早々と家を出て行く準備を始めた。

ちぇっ、もっと居てくれてもいいのに。

A「ごめんね、それじゃ」

全く躊躇う様子もなく出て行った。

モヤモヤする。


この時の俺は
この指輪そんなに大事なのか〜
なんて程度にしか思ってなかった。

もっとちゃんと考えてたら、
こんなことにはならなかったんだと思う。

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