運命のヒト【さとみ】

一線 ページ26

待ち合わせはあのバー。

たった数日ぶりなのに
すごく長い時間来ていなかったような感じがする。

そっと扉をあけて
いつもの席に座る。

Aさんはまだ来てないらしかった。

今のうちに気持ちを落ち着かせよう。

えっと、"会いたい"ってのは…

……期待してもいいのな。

だめだ、自惚れるな、俺。

ただ世間話するか惚気話するか、
そんな感じだろ、きっと。

さとみ「…」

先に飲んどこうか。

お酒を頼んで冷静を保つ。

しばらくすると、きぃっと扉が開く音がする。

振り返るとAさんと目が合う。

ふにゃっと笑う。

A「こんばんは」
さとみ「こんばんは」

そっと隣に座るAさん。

優しい香りが鼻に届く。

A「…」
さとみ「…」

何かあったんだろうな、きっと。

心なしか顔が暗い。

A「…久しぶりだね」
さとみ「そんなに会ってなかった？」

嘘つけ。久しぶりに会えて嬉しいくせに。

わざと何てことないような態度をする。

A「うん…すごい懐かしい感じがする…」

カクテルを飲みながら言葉をこぼす。

いつもの赤いカクテル。

さとみ「…確かになあ」

認めることにした。

A「…」
さとみ「ねえ」
A「ん？」

俺はAさんの持つグラスに視線を向ける。

さとみ「それ、美味い？」
A「美味しいよ」

駆け引きをする空気。

俺から味見をねだるか、
Aさんからお裾分けをするか。

さとみ「…」
A「…」
さとみ「もらっていい？」
A「どうぞ？」

駆け引きに負けた俺は
自らおねだりすることにした。

Aさんのグラスに口をつける。

ちょっとだけ、緊張する。

A「どう？」
さとみ「美味い」

グラスを返して、俺の分も渡す。

さとみ「お返し」
A「ありがと」

俺のグラスに口をつけるAさん。

俺は目を逸らす。

A「うわ〜酸っぱいね〜」
さとみ「炭酸きつかった？」
A「大丈夫〜」

グラスを元に戻す。

やっぱりAさんには赤いカクテルが似合う。

あともうひとつ、なんだっけ。

ホワイトレディーか。

あれも似合うな。

A「…久しぶりに飲んだなあ」
さとみ「飲んでなかったの？」
A「私さとみくんとしか飲んでない」

え、何その新事実。

A「もうちょっと若いときは結構飲んでたけど」
さとみ「そっ、か…」

なんか、めっちゃ嬉しい。

俺といるときだけ飲んでんの？

なんだそれ、嬉しい。

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