酸いも甘いも噛み締めて【沖田総悟】

46 ページ10

.



(全部、吐き出す)



何て魅力的な言葉なのだろう。

日に日に蓄積されていった行き場のないモヤモヤを、全部、全部吐き出してしまったら、どんなに楽なのだろう。



「聞いてやるぜ、依頼だからな」



もし、此処で、この気持ちの正体が分かるとしたら――？

そう思ったら、もう、この人の手を取らないわけにはいかないでしょう。





「―――んで、その悩みとやらを聞かせてもらおうか」



ソファに座って対峙するのは、以前出会った時と同じ着流しに身を包んだ坂田さん。


決して綺麗とは言い難い室内。
ソファは弾力性なんてものはなくて、暖房器具の無いそこではまるで氷の上に座っているようだった。


そこに文句なんて言えるわけもないし、ましてやそんな事、今の頭の中には無くて。

私は心の内の違和感をどう説明すればいいのかをひたすらに考える。



『……私、ですね』

「おう」

『実は、秋に総悟さんと結婚しまして』

「ほォ。………………エ？！沖田くんと？！！」



大声で驚き果てる坂田さんに一つ頷いて、左手の薬指に嵌められた安っぽい指輪を見せる。

「マジかよ」と、まだ信じられないような顔をしているが、私はそれが政略結婚である事を告げた。

47→←45

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す