酸いも甘いも噛み締めて【沖田総悟】

68 ページ32

.



『―――私、結構頑張ったんですよ？』



無我夢中で、あまり覚えていないけれど、あんなに刀を振るい続けたのは初めてだった気がする。


手は飛び散る赤がまとわりついて、すぐに冷たくなる。
極寒の中では手の感覚なんてものはあっという間に無くなって。

次々と襲いかかる男達に、何度も殺されかけた。



『あんなに、敵に囲まれたのは、はじ、めてで』



怖かった。

私が死んでしまったら、罪の無いあの人達までも殺されてしまうという事も。


此処で引いたら、たくさんの命が奪われる。
私が倒れれば、たくさんの命が奪われる。



『あんなに、沢山の人達の命を、一身に背負ったのも、初めてで……』



――――それから、



『貴方に、二度と会えなくなる事が…、何よりも怖かった、』



カタカタと震えだした手を押さえながら、涙を堪えながら、笑った。


あぁ、何を言っているんだろう、私は。
こんな事を言ってしまったらいけないのに。



(隠さなくちゃいけない、想いなのに)



『……ぐす…だから、褒めてください』

「……」

『私、褒められたら伸び――、』



遮られた言葉。鼻を掠めたその人の香り。
―――冷えた体を包んだ、温かな体温。


私の体を引き寄せた総悟さんは、強く強く抱き締める。

69→←67

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す