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(――――何を、しているんだろう)
ゴクリ、と思わず唾を飲んだ。
自動販売機の下に頭を突っ込んで手を必死に伸ばしている人なんて滅多に居るものじゃない。
…でも、ここでスルーするわけにはいかないのだ。
本来なら関わりたくない人種であるが、何せ通行人が私を縋るような目で見てきている。恐らく、この変人をどうにかして欲しいのだろう。
私のすべき事は一つ。彼に職質する事だ。
はぁ、と何度目かの溜息を零して拳に力を入れる。
変人に話しかける事がこんなに勇気のいる事なんて知らなかった。……教えてくれたこの人には感謝しないと。
『……あの、大丈夫ですか?』
「っ、くそ、あと少し…なのに……!」
控えめにかけた声は彼には届かなかったようだ。
私の存在に気づいていないその人は「ぐぬぬ」と、そんな声を出しながら自動販売機の下に埋もれてしまっている。
意を決して「あの!」と先程よりも数倍大きな声でその人を呼んだ。
肩をビクリと揺らした彼はズリズリと頭を自動販売機から出すと、私の顔を見上げる。
(―――…う、わ)
見上げたその男性は、思わず息が詰まるほど綺麗な人だった。
顔が整っている、とかそういう問題ではなくて。
銀の髪、それに栄える赤い瞳……―――何だろうか。その辺に居る侍とはかけ離れた、目を奪われるような、そんな人だった。
『…何か困っているんですか?』
そうだった、私は彼に職質しようと思って話しかけたのだ。目を奪われている暇があるわけもない。
我に返って地面に座り込んで呆然としたままの男性にもう1度声をかけると。
「―――の……くえん」
『え?』
「俺の、200円……」
どうやらその人は、自動販売機の下に手持ちの200円を落としてしまったらしい。
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アルハ*平日低浮上*(プロフ) - しろさん» コメントありがとうございます!わぁぁ、そんな風に言ってくださると、本当に嬉しいです!更新頑張ります! (2017年9月4日 23時) (レス) id: 5e4beefb64 (このIDを非表示/違反報告)
しろ - こんにちは!沖田さんの小説の中でもこの作品大好きです。これからも応援してます!! (2017年9月3日 22時) (レス) id: a9aae77c99 (このIDを非表示/違反報告)
アルハ*平日低浮上*(プロフ) - ちゃむさん» わぁぁ、とても嬉しおコメントありがとうございます!1番のお気に入りだなんて言ってもらえて私は幸せです泣。これからまた恋愛要素入れていくので楽しみになさっててください!^^*頑張ります! (2017年8月25日 23時) (レス) id: 5e4beefb64 (このIDを非表示/違反報告)
ちゃむ(プロフ) - 初めまして。今この小説が1番お気に入りでして更新を毎回楽しみにしてます。とてもキュンキュンしながら楽しんでます!有難うございます!更新頑張って下さい^ - ^ (2017年8月20日 8時) (レス) id: 595d5740d4 (このIDを非表示/違反報告)
アルハ*平日低浮上*(プロフ) - 獅子の子さん» す、素敵な小説だなんて・・・!ありがとうございます!はい、カップルの方でもコメント頂いて歓喜極まっています笑これからもこの小説を楽しんでもらえたら嬉しいです^^* (2017年8月11日 14時) (レス) id: 5e4beefb64 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アルハ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/bfd3c0329e2/
作成日時:2017年8月2日 22時