【実況者】音楽と共に (ページ6)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:308 hit

・ページ6

20××年の夏。

この時期になると、去年の事を思い出す。

彼女の横顔。

彼女の素顔。

花火の音。

…やっぱりわからない。

あれから何回か考えてみたけど、頭の中が「？」で埋め尽くされる。

…本人近寄って来たわ。

『ねぇ、君』

「…ゾムや言うとるやろ」

『ううん。君。今年も行かない？花火大会』

「はぁ…俺ら受験生やろ？そんなん行く暇あるなら勉強せぇや」

『堅苦しいな～。君はどうせサボってるでしょ。いいから、行こ？』

「…」

『じゃあまた、ね』

こんなに彼女と話したのは去年以来だ。

本当、何回も言うが、調子が狂う。

まだ、読めない。

遠くで花火が鳴る音が聞こえた。

…あぁ、まだ“青春”はあったんや。

「…あんさ」

『ん？』

俺は、Aの腕を引っ張った。

触れたのは初めてかもしれない。

そんな事はどうでもよくて、話を続ける。

「言いたい事あるから、去年みたいに早く帰らんといてな」

『あら、すごい奇遇。私も君に話したい事あるから』

「…そ。それだけやから」

『そう。じゃあね』

なんでか知らんけど、嬉しくなった。

「お帰り～…なんや、ゾム。顔赤なってへん？」

「なんでもねぇし。なんもなってねぇし」

「ヘェ～…報告よろしくな！」

「うっせ。童貞に報告して何になるんや？おぉん？？」

「童貞ちゃうわ！！」

席に戻ると、隣の席のロボロに煽られた。

だから、煽り返した。

そんなんですぐムキになるから彼女出来へんのや。

「はいはい。静かに。もう貴方達は受験生。て事で、進路票渡すので夏休み明けに提出するように。以上」

先生の話に、ブーイングが巻き起こる。

俺は参加していない。

進路。

全く先の事が見えないから。

今のままが楽しい。

「さよなら」が近づくのは嫌なんや。

…あいつは、Aはどうするのだろう？

やっぱ進学だよな、普通。

高卒の就職はなくはないけど、しんどそうやし。

花火大会の時、聞いてみるか。