三百三十六夜。 ページ38
『リンク!!』
ネアがこちらを向くのと、リンクが顔を上げたのがほぼ同時。
そして思わず前に飛び出した私の胸元にそれが刺さったのも同じ瞬間だった。
「何……っ!?」
「A!」
こちらに手を伸ばすリンクの手がどんどん遠のいていく。
胸元に刺さったその勢いのまま、私の身体は後ろに飛びジョニーがもたれかかっている壁に激突して、やっと止まることができた。
さほど遠くに飛ばされなかったのは良いけれど、身体を伝う生温かいものは止まらない。
『最悪だ……』
先ほど知った古傷。柔らかいそこに伯爵の攻撃が見事に当たっていた。
そのせいで溢れ出る血が止まらないのだ。
「何だ?なんで動けたんだ」
ネアが訝しげに伯爵を眺める。リンクは切羽詰まった表情でこちらに走ってきていた。
「A!傷を見せてください!」
『ダメ…癒闇蛇は使わないで』
「何言ってるんです!!その傷こそ使うべき場面でしょう!」
『私の血は凝固のスピードが速い…から』
言ったそばから、私の足付近まで流れ出ていた血はその場に留まり固まりつつある。
「し、しかし…っ」
「おい、そいつの結界が割れ始めてるぞ。このままじゃ動き出すのも時間の問題だ」
「シンクロが乱れているのか…!私が持ち直す!」
私の結界の代わりにリンクが札の数を増やす。再び襲ってこようとしていた動きを何とか止めることに成功したみたいだ。
凝固スピードが速いとはいえ、流れ出る量がそれに間に合ってないのか私の意識はだんだんと朧気なものになっていく。
同時にとてつもない眠気が襲ってきた。
「A、意識を手放してはいけません!」
伯爵の動きを封じながら必死に声を掛け続けてくれるリンク。
その声に応えようと口を動かすも、出てくるのは力ない自分の息だけ。
目を完全に閉じる直前、複数の人影がネアとリンクの周りに姿を現したのが見えた。
・ ・ ・
先ほどまでは感じなかった心地よい風を肌に受けて、私は目を開ける。
目の前に広がるのはかつてワタシと話をした時の金色の稲穂が揺れる美しい風景。
『そうだ、傷は…』
血が溢れ出ていた胸元の傷は元通り塞がっている。ほっと安心したのも束の間、この傷の事を聞かなければいけないことを思い出した。
同時に、この風景を見ているということはメモリーであるワタシの意識の中に飲み込まれたことだということも。
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あずさ - お忙しいとは思いますが、更新楽しみにしています!! (2020年1月28日 18時) (レス) id: dc5172fd12 (このIDを非表示/違反報告)
Rico(プロフ) - こんにちは。アレンくんと夢主ちゃんの今後が楽しみです。お忙しいかもしれませんが、更新頑張ってください! (2019年8月17日 1時) (レス) id: 3a6a1a4cba (このIDを非表示/違反報告)
歩。(プロフ) - 更新お待ちしてます! お忙しいとは思いますが楽しみにしています! (2019年4月23日 4時) (レス) id: f251146aad (このIDを非表示/違反報告)
ノルン(プロフ) - 楽しみにしてます(`・ω・´)ゞ (2018年10月20日 19時) (レス) id: 265a916812 (このIDを非表示/違反報告)
パオパオ - めちゃおもしろいです!!!続き楽しみにしてます!!!! (2018年1月20日 21時) (レス) id: 89165a1c38 (このIDを非表示/違反報告)
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