本当は、 【織田作之助】【文スト】

喪った日。 ページ22

織田作が死んだ。

掠れた声で、そう告げられました。

「…………そう、ですか」

電話の向こうの太宰さんに、私はそれだけを零しました。それ以外に何も云えませんでした。
きっと、実感がわいてなかったのでしょう。


抜け殻のように、日々を過ごしました。何をしていても作之助さんが頭に浮かんで、業務に全く集中できませんでした。

「……作之助さん、こんにちは」

太宰さんに連れられて、作之助さんのお墓に来ていました。
私はまだ、まともに泣けていませんでした。
私の気分とは真逆な、爽やかな風が辺りには吹き抜けていました。

物言わぬ石の塊を見て、漸く私は、『本当に作之助さんは居なくなってしまったのだ』と実感しました。

「作之助さん」

嗚呼、といつもの穏やかな声は返ってきません。

「……作之助さん」

優しい目をして、私を見返してはくれません。

「作之助さんっ……！」

太陽の光をきらきらと反射する、貴方の赤い髪をもう見る事はできません。

「さくのすけ、さぁん……！」

あの暖かな胸に顔を埋めて、抱きしめてもらう事はもうできません。

何度も何度も泣きながら名前を呼んで、返事の返ってこない事に失望して、悲しくなって、また涙が溢れました。
もう枯れ果てたと思う程に泣きました。
喉が枯れるほど叫びました。

私の泣き止んだ頃を見計らって、太宰さんは云いました。

「私、地下に潜るんだ」

これまでの経歴を洗浄し、私の生活する、光の当たる世界で生きるそうです。

「何時、また会えるか分からないけど。また会ったときは宜しくね」

へらりと、憑き物が落ちたような顔で笑いました。

「はい。元通りにはできませんけど、お互い頑張りましょうね」

この傷を癒やす事は、一生かけてもできません。きっとずっと、じくじくと乾かない生傷のまま。
忘れたくなることもあるでしょうけど。

忘れたりなんか、しませんよ。
作之助さんと出会えた事は、私の宝物ですからね。

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