９.田中さん ページ9
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木曜日。
お店に行くか、かなり、迷った。
行けばまた、二宮さんがいる気がして。
こんな事に悩まされている自分に、嫌気がさした。
たった二度、会話しただけの男に
どうしてこんなに振り回されてるんだろう。
「ハァ…」
特に仲の良い友達もいないし
一緒に飲みに行こうと同僚に誘われても
断り続けてきた。
そのせいで、周りも諦めたのか、呆れたのか
今じゃわたしを誘ってくることは無くなったし
もはや、喋りかけられるのも事務的な内容だけ。
プライベートの話なんて、
ほっとんど、してこなくなった。
取っつきにくい だとか
仕事女は冷徹 だとか
散々裏で言われてる事は百も承知。
自分がそう仕向けたのだから。
何を言われても仕方がない。
そんな中で、一人だけ気兼ねなく
私に接してくれる人がいる。
田中さん。
私の三つ上の男の先輩。
彼は、仕事もそつなくこなしちゃうし
周りからも信頼の厚い、言っちゃえば完璧な人。
長身で、すらっとしてて、カッコいい。
滲み出ている優しが、
私には、痛い程、グサグサと刺さる。
「相川、この後ヒマ？」
仕事が今日は定時で終わって
荷物を纏めている所に田中さんが訪ねてきた。
身長の高い田中さんをそっと見上げて
「今日、ですか…」
マスターのとこ、行こうか、行くまいか…
二宮さんの顔がチラホラと頭に浮かんできて
行きたいけど、行きたくなくて。
「あ、予定があるんだったら、いいんだけどさ。お前いつも予定入ってるからなぁ…」
「・・・ないです！」
ええい、二宮さんなんて気にする必要ない！
今まで断り続けてきたけれど、
やけくそになって、オッケーしてしまった。
「ん、じゃあ直ぐ、行くぞ〜。」
ちょっとだけ驚いた表情をした田中さんは
直ぐに嬉しそうな表情に変わって
軽い足取りでオフィスを出て行く。
「ちょ、田中さん…」
待ってくださいよ…
心の中でそう言いつつ、田中さんの背中を追うように足早に会社を出た。
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作者名：べに | 作成日時：2017年2月24日 8時
