３２.何も知らない ページ32
二人で肩を並べて
二人でアイスを半分こして
私の歩幅に合わせてくれる、
その二宮さんの足元を見つめながら歩いた。
「寒いですね。」
「アイス食べたいつったの誰よ。」
「フフ、ごめんなさい。」
優しい時間に心が擽られて
優しい会話に胸がいっぱいになる。
こんな時間が続けばいいのに。
そう願えば願うほど
二宮さんを困らせてしまうんだろうね。
「二宮さんは…」
「うん。」
「何が好きですか？」
悲しくなるような事を考えるのはやめよう。
今の時間を、純粋に、楽しんでいたい。
頭の中にぐちゃぐちゃになっている
二宮さんへの想いを閉じ込めて違う事を考えようと努めた。
「・・ん？」
唐突に私が言い出したことの意味が
理解できなかったみたいで
ハテナ、な表情の二宮さん。
「食べ物で、何が好きですか？」
ちゃんとした質問をもう一度投げると
あぁ、と理解したように頷いて笑われた。
「ハンバーグとかオムライスとか。後はね、辛い物も割と好きだね。」
「最初の二つは子供好みですね。」
「ンフフ、俺ね、食に関しては安っぽいの。」
鼻にかかった笑い方がとても心地良くて
癖なのか、鼻を触る仕草が可愛くって。
すきだ、と体全身が二宮さんを求めてしまう。
ちょっとだけ、二宮さんの方に
体を寄せてみたり
届かないと分かっているのに
心のどこかで期待している自分に
やっぱり馬鹿だなぁと、客観的に思う。
「急になんで聞いてみたの？」
「二宮さんのこと何も知らないから。」
「あー。じゃあ自己紹介しようか？」
そう言って二宮さんが立ち止まった先には
もう私のマンションで
「また、次会った時に、教えてください。」
また会いたい、と言う私の
分かり易過ぎる気持ちを込めた。
ほんとは今直ぐにでも聞きたかったけど
もっと二宮さんのことが知りたかったけど
我慢することにした。
「アハっ、Aちゃんらしいわ。じゃ、またね。」
その笑顔が名残惜しかった。
小さくなる背中が見えなくなるまで
立ちっぱなしで、ジッと見届けた。
今お別れしたばっかなのに
もう会いたいと思ってしまう私は
既に、手遅れだね。
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作者名：べに | 作成日時：2017年2月24日 8時
