１５.諦め ページ15
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木曜日。
今日は迷わず、yellow honey に向かった。
なんでだろうか、
下り坂を降るように足取りは軽くて
お店に続く長い一本道を
少しずつ、春の香りが感じれるようになったなぁ
なんて、季節の変わり目に浸りながら
ゆっくり、マイペースに歩いていた。
今日は二宮さん、来るのかな。
それが、何より一番気にしている事で
何より、気にしたくない事でもある。
どうしてこんなに
お店に行く事が楽しみになっているのかなんて
理由は明確なクセに、
私は知らんぷりをしていた。
自分の気持ちを目の前にして
また、前のように傷つくのが怖いんだ。
それに、
彼と会って時間はそれほど経っていない。
のに、
どうしても頭から離れない二宮さん。
どうしても、気になって仕方がない。
自分らしくない自分に、正直戸惑っていた。
「Aちゃん。」
考え事をしていたせいで近づいて来ていたその人の足音に気付けなかった。
「…二宮さん。」
まさに、その人だった。
二宮さんは今日も仕事帰りみたいで
スーツを身に纏っていた。
どんな仕事をしているのかは
その姿からだけでは想像は出来ない。
「トロトロ歩いてないで行くぞー。」
私の手を取って
二宮さんは私より速いペースで歩き出した。
手、繋がれてる…
心臓が痛い。胸が苦しい。
でも、嬉しかった。
やっぱり、自分には嘘をつけなかった。
いつもは自分で押す見慣れた木製のドアを
今日は二宮さんが勢いよく押して
その時、繋がれていた手は
スルッと離れて
急に寂しくなる右手を見つめていたら
「特等席、空いてるよ。」
二宮さんは私の背中をポン、と押して
私をいつもの席に促した。
二宮さんの手が、触れるたびに
ドキドキして、嬉しくて、
でも、その度虚しくなる。
一方的な想いに、虚しくなってしまうの。
「お腹空いてる？」
「え、あ、うん。」
意識し過ぎて、うまく返事が出来ない。
カッコ悪いなぁ
こんな私は、久しぶりだった。
恋をしても、諦める事くらい
今までなら簡単に出来たはずで
心の何処かに閉じ込めることくらい
何度もして来たはずだった。
なのに、どうして。
「ほれ、大好物だろ？」
フライドポテトを私の前にドン、と置いて
口角を上げて笑う二宮さんを、
お前のために注文したんだぞ？なんて言いながら
私よりそれを頬張る二宮さんを、
諦める事は、どうしても出来なかった。
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作者名：べに | 作成日時：2017年2月24日 8時
