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chapter 77 ページ27

*





あの後―――





マサ先輩は先に体育館を出て行った。



電気が付いていても昼間とは違う、シン―――とした中
私は一人、宿舎の廊下を歩いていた。



自分の足音だけが、小さく響いている。









―――お前の気持ちを優先させな









頭の中で繰り返される、先輩の言葉。





『…、』





とは言え、ワールドカップまであと一週間。
勝負の時はもう目の前に迫っていた。

こんな大事な時期に私情をはさめるわけがないし、
はさむつもりもない。



だから、









『………やめよう』





考えるのを。



今は石川くんのことも先輩のことも考えるのはやめて、
トレーナーの仕事に集中しよう。





………なんならいっそ、





(その間に、この気持ちに蓋をしてしまおうか)





そんなことを考えながら階段を昇っていたとき、
上の階から話し声が聞こえた。









「―――だから………太郎さんが」
「いやいやお前っ、………あれは―――がさぁ!」





『―――!』





―――ダッ





声の主が石川くんだとわかった瞬間、
私は階段を二段飛ばしで駈け降りた。

そしてそのままの勢いで元来た道を戻り、
ロビーの長椅子の影に身を潜める。





『―――っ!』

膝を抱えて、精一杯小さくなって両手を握りしめる。



(どっか行けどっか行けどっか行け………)

(こっち来ないでどっか行けぇぇぇ…!)





だけど、そんな私の必死の願いは叶わず
二人の声はどんどんこっちに近づいてくる。





(…なに、隠れてるんだろ)



頭の中でそんなことを考えながら
ぎゅっと目を瞑って、二人が通り過ぎるのを待った。









*





*





*









「………Aさん?」





『…!!!』









―――心臓が、止まるかと思った。









反射的に背後を振り返る。

だけど、自分の目には長椅子の背しか映っていない。









『………な、んで?』





二人には届かないように、小さく呟く。









―――なんで?









「は?A?」



どこ?、と問う高橋くんも、
それに答える様子がない石川くんも、

まだ私の前に姿を現していないのに。









『………なんで、わかったの?』









頭上にフッと、影が差す。









「―――ほら。やっぱりAさん」









混乱する私の前に、ようやく彼は現れた。









*

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Yuri(プロフ) - KANNAさん» コメントありがとうございます(*´ェ`*)笑っていただけました??キュンキュンしていただけました??(;▽;)嬉しいです!!個人的に健太郎さんのギャグパートが書いてて楽しかったです。笑 お気遣いと労いの言葉にも救われる思いです…ありがとうございます( ; _ ; ) (2016年6月12日 16時) (レス) id: 258a85c425 (このIDを非表示/違反報告)
KANNA(プロフ) - キュンキュンもして・・・本当に楽しい作品です!お仕事の合間で負担になるかもしれませんが、もしまた新しいストーリーを書いて下さったら飛びついて読みます!笑 最高です!お疲れ様でした(*^^*) (2016年6月12日 15時) (レス) id: 35cc4c3b7c (このIDを非表示/違反報告)
KANNA(プロフ) - 読ませて頂きました。ストーリーもそれぞれの考えや言葉も本当に素敵で声に出して笑うこともあれば、 (2016年6月12日 15時) (レス) id: 35cc4c3b7c (このIDを非表示/違反報告)
Yuri(プロフ) - じじさん» コメントありがとうございます(;▽;)イキナリでも予告ありでもなんでも構いません!!嬉しいです!!(;▽;)幸せに…なってもらえたなら本当に、作って良かったなぁ!!って思います。ありがとうございます。 (2016年6月11日 3時) (レス) id: 258a85c425 (このIDを非表示/違反報告)
じじ(プロフ) - 初めまして。全部読ませてもらいました!とっても感動し、幸せな気分を味わえるお話でした(*^ω^*)作者さんの書き方?描写?がとっても好きです!!次作とか作る予定があればぜひ楽しみにしています゚(゚´Д`゚)゚。いきなりコメントしてすみませんでした(><)笑 (2016年6月11日 1時) (レス) id: 0114c047a9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Yuri | 作成日時:2016年1月9日 0時

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